連結決算の損益計算書には、「当期純利益」の近くに「非支配株主に帰属する当期純利益」と「親会社株主に帰属する当期純利益」が並ぶことがあります。似た名前ですが、投資先である親会社の株主に最も直接対応するのは、通常、親会社株主に帰属する当期純利益です。
非支配株主に帰属する当期純利益は、連結子会社が稼いだ利益のうち、親会社以外の株主に帰属する部分を表します。費用や損失として企業集団の外へ流出した金額ではありません。連結グループ全体で生じた当期純利益を、誰に帰属するかによって分けた内訳です。
この記事では、日本基準の連結財務諸表を中心に、利益がどの順序で計算されるのか、決算短信のどこを見るのか、EPS(1株当たり利益)にはどの利益を使うのかを整理します。数値例は仕組みを示すための架空例であり、個別銘柄の評価や売買を勧めるものではありません。決算書全体の位置関係から確認したい場合は、決算書の読み方入門も併せてご覧ください。
連結決算ではグループ全体の利益を先に計算する
連結財務諸表は、親会社と連結子会社を一つの企業集団として表します。親会社が子会社株式の100%を持っていなくても、その会社を支配して連結子会社としているなら、原則として子会社の売上高や費用を持分比率だけで切り取らず、連結手続を経て全体へ取り込みます。
たとえば、親会社が子会社の議決権の80%を持ち、残る20%を外部株主が持つ単純なケースを考えます。子会社の売上高が100億円だからといって、連結売上高へ80億円だけを足すわけではありません。子会社の収益と費用を連結し、親子会社間の売買や債権債務、未実現損益などを消去した後、企業集団全体の利益を計算します。
日本基準の連結損益計算書では、おおむね次の流れで利益が表示されます。
- 売上高から売上原価を差し引き、売上総利益を計算する
- 販売費及び一般管理費を差し引き、営業利益を計算する
- 営業外収益と営業外費用を加減し、経常利益を計算する
- 特別利益と特別損失を加減し、税金等調整前当期純利益を計算する
- 法人税等を加減し、当期純利益を計算する
- 当期純利益を、親会社株主に帰属する部分と非支配株主に帰属する部分へ分ける
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」は、2計算書方式では当期純利益に非支配株主に帰属する当期純利益を加減して、親会社株主に帰属する当期純利益を表示すると定めています。したがって、基本的な関係は次のように整理できます。
当期純利益 = 親会社株主に帰属する当期純利益 + 非支配株主に帰属する当期純利益
非支配株主に帰属する当期純損失がある場合は、その損失を差し引く関係になります。そのため、子会社の一部が赤字を計上した年度には、親会社株主に帰属する当期純利益が連結全体の当期純利益を上回ることもあります。数字の大小だけを見て誤記と判断せず、非支配株主に帰属する欄の符号まで確認します。
非支配株主持分は親会社に帰属しない子会社の持分
「非支配株主」とは、連結子会社の株主のうち、連結上の親会社ではない株主を指します。「少数株主」という古い呼び方を見かけることがありますが、現在の日本基準では「非支配株主」「非支配株主持分」という名称が使われます。
企業会計基準委員会の資本連結手続に関する実務指針は、非支配株主持分を「子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分」としています。連結貸借対照表では純資産の部に表示され、支配獲得時の子会社の資本のうち、非支配株主に対応する部分が出発点になります。
ここで区別したいのは、「持分」と「利益」です。
| 用語 | 主に現れる書類 | 表しているもの |
|---|---|---|
| 非支配株主持分 | 連結貸借対照表 | 決算日時点で、子会社の純資産のうち親会社に帰属しない部分 |
| 非支配株主に帰属する当期純利益 | 連結損益計算書 | その会計期間の子会社損益のうち、非支配株主に帰属する部分 |
非支配株主に帰属する当期純利益が計上されると、原則として非支配株主持分にも加算されます。一方、子会社が非支配株主へ配当すれば、その分だけ非支配株主持分は減ります。したがって、期首と期末の非支配株主持分の差が、そのまま非支配株主に帰属する利益と一致するとは限りません。
また、「親会社が51%、外部株主が49%」のような場合だけに生じる項目でもありません。非支配株主の比率が小さくても、子会社の規模や利益が大きければ金額は大きくなります。反対に、親会社の持分比率が低めでも、対象子会社の利益が小さければ影響は限定的です。比率と利益額を分けて読みます。
関連会社にも外部株主はいますが、持分法適用会社の損益は通常「持分法による投資損益」として連結損益へ反映されます。連結子会社の非支配株主に帰属する利益と、持分法による投資損益を同じ項目として扱わないことが重要です。
損益計算書で3つの利益を探して差額を確かめる
決算資料では、まず資料の表紙や注記で「連結」か「非連結」かを確認します。非支配株主に帰属する当期純利益は連結上の項目なので、連結子会社がない企業の非連結決算には通常現れません。
確認の順番は次のとおりです。
- 決算短信のサマリーで「親会社株主に帰属する当期純利益」を探す
- 連結損益計算書で「当期純利益」を探す
- その直後にある「非支配株主に帰属する当期純利益」と「親会社株主に帰属する当期純利益」を探す
- 3つの金額の足し算が合うか、損失の場合は符号も含めて確かめる
- 前期と当期を並べ、非支配株主に帰属する金額が大きく動いていないか確認する
架空の連結損益計算書が次の数字だったとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 税金等調整前当期純利益 | 150億円 |
| 法人税等 | 45億円 |
| 当期純利益 | 105億円 |
| 非支配株主に帰属する当期純利益 | 15億円 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 90億円 |
この例では、連結グループ全体の税引後利益は105億円ですが、親会社の株主に帰属する部分は90億円です。差額の15億円は、連結子会社の外部株主に帰属します。株式評価などで親会社株主の利益を見たい場面に、105億円をそのまま使うと、親会社株主に対応しない利益まで含めることになります。
ただし、非支配株主に帰属する利益は、すべての子会社の利益へ単純に外部持分比率を掛ければ再現できるとは限りません。連結上の時価評価による簿価修正、のれんの償却、内部取引の消去、子会社ごとの持分比率や取得時期などが影響するためです。概算と開示額が合わない場合は、自分の計算を正解とせず、有価証券報告書の連結財務諸表や注記へ進みます。
東京証券取引所は、決算短信の参考様式を日本基準、IFRS(国際会計基準)、米国基準に分けて公表しています。IFRS企業では「親会社の所有者に帰属する当期利益」「非支配持分に帰属する当期利益」など、日本基準と異なる名称が使われることがあります。名称だけでなく、採用する会計基準と対象期間をそろえて比較してください。
EPSには親会社株主に帰属する利益を使う
EPSは、親会社の普通株式1株当たりに対応する利益を見る指標です。日本基準の企業会計基準第2号では、1株当たり当期純利益を、普通株式に係る当期純利益を普通株式の期中平均株式数で割って算定します。また、連結財務諸表における当期純利益は、親会社株主に帰属する当期純利益を指すと明記されています。
基本的なイメージは次のとおりです。
EPS = 親会社の普通株式に係る当期純利益 ÷ 普通株式の期中平均株式数
先ほどの架空例で、親会社株主に帰属する当期純利益が90億円、調整後の期中平均株式数が3,000万株なら、単純化したEPSは300円です。
90億円 ÷ 3,000万株 = 300円
連結全体の当期純利益105億円を使うと350円になりますが、非支配株主に帰属する15億円まで親会社の株式数で割るため、親会社株主に対応するEPSにはなりません。
実際の基本的EPSでは、優先配当など普通株主に帰属しない金額の調整や、期中平均株式数からの自己株式控除が必要です。新株予約権や転換証券などがある場合には、潜在株式調整後EPSも別に確認します。詳しい分子と分母のそろえ方は、EPSの伸びと発行株数の確認方法で整理しています。
PER(株価収益率)を計算するときも、通常はこのEPSを使います。親会社株主に帰属する利益が伸びていないのに、連結全体の当期純利益だけが伸びている場合、親会社株主にとっての利益成長を過大に読まないよう注意が必要です。一方で、非支配株主に帰属する利益が大きいこと自体が悪いわけではありません。外部資本も活用しながら規模の大きい子会社を支配している結果かもしれないため、資本構成と事業の中身まで見ます。
子会社の追加取得・一部売却で持分比率が変わる
非支配株主に帰属する利益を時系列で比べるときは、子会社の業績だけでなく、親会社の持分比率が変わっていないかを確認します。同じ子会社が同じ利益を上げても、親会社が子会社株式を追加取得すれば、翌期以降に親会社株主へ帰属する割合は増え、非支配株主へ帰属する割合は減る可能性があります。
反対に、支配を維持したまま子会社株式を一部売却すれば、非支配株主の持分比率が増える可能性があります。子会社が外部向けに増資し、親会社が同じ割合で引き受けなかった場合も、持分比率が動くことがあります。
日本基準では、支配が継続している子会社株式の追加取得や一部売却による持分変動は、連結上、単純な当期利益の増減として扱うのではありません。企業会計基準第22号では、追加取得持分と追加投資額の差額や、一部売却による親会社持分の減少額と売却価額の差額を資本剰余金として処理するとしています。
そのため、次の二つを分けて追う必要があります。
- 損益の変化:子会社が当期にいくら稼ぎ、そのうち誰にいくら帰属したか
- 資本取引の変化:追加取得、一部売却、子会社増資などで持分比率と純資産の帰属がどう変わったか
比較表には、非支配株主に帰属する当期純利益だけでなく、主要子会社の持分比率、連結範囲の変更、取得日や売却日も記録します。期中に持分比率が変わった場合、期末時点の比率を通期利益へ単純に掛ける計算では開示額を再現できないことがあります。
決算短信だけで理由が分からなければ、有価証券報告書の「関係会社の状況」「企業結合等関係」「連結株主資本等変動計算書」や関連注記を確認します。子会社ごとの売上や利益を読む際は、セグメント情報の読み方も参考になります。ただし、報告セグメントと法人としての子会社は必ずしも一対一ではありません。
前年比較では利益額・比率・連結範囲をそろえる
非支配株主に帰属する利益を企業分析へ使うときは、単年度の金額だけで結論を出さず、次の順に確認すると読み違いを減らせます。
| 確認項目 | 見る数字・資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 利益の分解 | 当期純利益、親会社株主帰属利益、非支配株主帰属利益 | 利益と損失の符号をそろえる |
| 相対的な大きさ | 非支配株主帰属利益 ÷ 当期純利益 | 当期純利益がゼロ付近や赤字なら比率が安定しない |
| 子会社業績 | 主要子会社、セグメントの利益 | セグメントと子会社を同一視しない |
| 持分比率 | 親会社の議決権・所有割合 | 期中の取得、売却、増資を確認する |
| 比較条件 | 会計基準、決算期、連結範囲 | M&Aや連結除外がある年は単純比較しない |
| 1株指標 | 基本的EPS、潜在株式調整後EPS | 連結全体の当期純利益を分子にしない |
非支配株主に帰属する利益が増えた場合、少なくとも三つの可能性があります。第一に、外部株主がいる子会社の業績が改善した場合。第二に、親会社の持分比率が下がった場合。第三に、新たな子会社を連結した場合です。反対に金額が減った場合も、子会社の業績悪化だけでなく、親会社による追加取得や子会社の連結除外が考えられます。
実務用の比較表には、次の項目を残します。
| 期間 | 当期純利益 | 親会社株主帰属 | 非支配株主帰属 | 主な持分変動 | 連結範囲の変更 |
|---|---|---|---|---|---|
| 前期 | 開示額 | 開示額 | 開示額 | 追加取得・一部売却など | 新規連結・除外など |
| 当期 | 開示額 | 開示額 | 開示額 | 追加取得・一部売却など | 新規連結・除外など |
最後に、親会社株主に帰属する利益が増えたかだけでなく、その増加が本業の成長、子会社の利益改善、持分比率の変化、一時的な取引のどれによるのかを分けます。非支配株主に帰属する利益は、差し引けば終わる項目ではなく、企業集団の利益と親会社株主の取り分がなぜ違うのかを説明する手掛かりです。
よくある質問
非支配株主に帰属する当期純利益は、会社の費用ですか?
費用ではありません。連結グループ全体の当期純利益を計算した後、そのうち連結子会社の外部株主に帰属する部分を示したものです。企業集団全体の利益と、親会社株主に帰属する利益を区別するために表示されます。
非支配株主に帰属する当期純利益が大きい会社は、問題がありますか?
金額が大きいだけでは判断できません。外部株主がいる子会社の規模が大きい、子会社の業績が伸びた、親会社の持分比率が下がった、といった複数の理由が考えられます。親会社株主に帰属する利益との推移、主要子会社の持分比率、連結範囲の変更を併せて確認します。
非支配株主に帰属する利益がマイナスになることはありますか?
あります。外部株主が持分を持つ連結子会社で損失が生じると、「非支配株主に帰属する当期純損失」として表示されることがあります。この場合、親会社株主に帰属する当期純利益が連結全体の当期純利益を上回ることもあるため、金額だけでなく符号を確認します。
非支配株主に帰属する当期純利益と、非支配株主に係る包括利益は同じですか?
同じではありません。当期純利益に含まれないその他有価証券評価差額金や為替換算調整勘定などの変動は「その他の包括利益」に含まれます。連結財務諸表では包括利益にも親会社株主に係る部分と非支配株主に係る部分があるため、純利益の帰属と包括利益の帰属を分けて読みます。
一次情報の確認メモ
- 確認日: 2026-07-24。企業会計基準委員会「企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準」。連結損益計算書における当期純利益、非支配株主帰属利益、親会社株主帰属利益の表示関係と、支配継続中の追加取得・一部売却の処理を確認。https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/spc20260602_06.pdf
- 確認日: 2026-07-24。企業会計基準委員会「資本連結手続に関する実務指針」。非支配株主持分の定義、子会社損益の持分比率による帰属、配当・追加取得・一部売却・増資などによる増減要因を確認。https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=135
- 確認日: 2026-07-24。企業会計基準委員会「企業会計基準第2号 1株当たり当期純利益に関する会計基準」。連結EPSでは親会社株主に帰属する当期純利益を基礎とし、普通株式の期中平均株式数で除して算定することを確認。https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=29
- 確認日: 2026-07-24。日本取引所グループ「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」。日本基準・IFRS・米国基準ごとに、連結決算短信の参考様式が公表されていることを確認。https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/
- 確認日: 2026-07-24。企業会計基準委員会「企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準」。連結財務諸表のその他の包括利益には親会社株主に係る部分と非支配株主に係る部分が含まれ、包括利益についても両者の金額を表示することを確認。https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=22
- 確認日: 2026-07-24。企業会計基準委員会「企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準」。持分法は、被投資会社の資本・損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて投資額を修正する方法であり、連結子会社の利益を帰属別に分ける処理とは異なることを確認。https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=37