決算記事で「第1四半期の営業利益進捗率は30%」といった数字を見かけても、その数字だけでは計画が順調かどうかは分かりません。年間利益が毎月均等に積み上がる会社もあれば、特定の季節、納品時期、契約更新時期に偏る会社もあるからです。
進捗率は、会社の通期予想に対して、期中までの累計実績がどこまで到達したかを一つの比率にしたものです。計算は簡単ですが、分母と分子の期間、会社予想の更新日、季節性、一時要因をそろえなければ、見かけだけの比較になります。
この記事では、営業利益の進捗率を中心に、数字を作る順番と、数字を評価する順番を分けて整理します。決算全体の入口は決算書の読み方入門、会社予想の読み分けは業績予想の見方、発表時期の確認は決算シーズンの歩き方も併せて参照してください。
進捗率は通期予想に対する累計実績
通期予想が正の数で、比較する利益項目が同じなら、基本式は次のとおりです。
進捗率(%)=期首から今回までの累計実績 ÷ 最新の通期会社予想 × 100
たとえば、通期の営業利益予想が120億円、第1四半期累計の営業利益が18億円なら、営業利益の進捗率は15%です。
18億円 ÷ 120億円 × 100 = 15%
この例の会社が計画より遅れているとは、まだ判断できません。前年の第1四半期までに通期実績の10%しか稼いでいなかったなら、今期15%は前年より速い可能性があります。反対に、例年は第1四半期までに35%を稼ぐ会社なら、15%には理由の確認が必要です。ここで使った120億円と18億円は、計算方法を示すための架空数値です。
進捗率の役割は、異なる桁の会社予想と実績を同じ比率へ直し、時系列比較の入口を作ることです。比率になっても、会社の事業内容や利益の出る時期がそろうわけではありません。「進捗率が高いから良い」「低いから悪い」と結論を置くのではなく、次に確認する箇所を絞るために使います。
なお、売上高進捗率、営業利益進捗率、経常利益進捗率、純利益進捗率は別々の指標です。売上高は順調でも、原材料費や人件費が増えて営業利益だけ遅れることがあります。営業利益は遅れていても、営業外収益や特別利益の影響で純利益が先行する場合もあります。まず同じ利益段階を対応させ、複数の進捗率を混ぜないことが出発点です。
決算短信の表紙から短時間で確認する順番は決算短信を5分で読む順番、利益段階ごとの差を生む一時要因は特別利益・特別損失の見方で詳しく整理しています。
四半期累計と通期予想の期間をそろえる
東証は、事業年度、中間会計期間、第1・第3四半期の決算内容が定まった場合の開示を上場会社に求め、決算短信と四半期決算短信の参考様式を公表しています。2026年7月版の案内では、第1・第3四半期用と、第2四半期(中間期)用の様式が分かれ、日本基準、IFRS、米国基準などでも様式が分かれています。
進捗率を計算するときは、決算短信の表題と表の対象期間を先に見ます。「第2四半期」という言葉があっても、損益の欄が第2四半期だけの3か月値ではなく、期首から中間期末までの6か月累計になっていることがあります。通期12か月の予想に対して使うのは、原則として期首からの累計実績です。
確認する単位は次の4点です。
- 分子は単独3か月か、期首からの累計か
- 分母は通期12か月の会社予想か
- 分子と分母は連結か非連結か
- 売上高、営業利益などの利益段階が一致しているか
架空例として、4〜6月の営業利益が12億円、7〜9月が18億円、上期累計が30億円、通期予想が100億円だったとします。第2四半期時点の進捗率は、7〜9月の18億円ではなく、上期累計30億円を分子にして30%と計算します。
30億円 ÷ 100億円 × 100 = 30%
資料によって単位が「百万円」「億円」と異なるときは、割り算の前に単位をそろえます。営業利益5,400百万円は54億円です。分子を百万円、分母を億円のまま割ると100倍ずれます。表の上部にある単位表示を、数字と一緒に記録しておくと防げます。
また、親会社の決算期と比較先の決算期が同じとは限りません。3月期企業の第1四半期と12月期企業の第1四半期では、対象となる暦月が違います。会社間比較では「第何四半期」だけでなく、対象開始日と終了日もそろえてください。
25%刻みで判断せず季節性を読む
1年を4分割すると、25%、50%、75%、100%という目盛りを置きたくなります。しかし、この目盛りは時間が4分の1ずつ経過したことを示すだけで、利益計画が4分の1ずつ進むことを意味しません。
季節性とは、需要、価格、操業度、天候、商習慣などにより、売上や費用が年間の特定時期へ繰り返し偏る性質です。企業会計基準委員会の企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」も、著しい季節的変動を注記事項として扱い、年間を基礎に設定した予定価格や標準原価と、季節的に変動する操業度から生じる原価差異について一定の会計処理を定めています。季節性は、投資家が便宜的に持ち込むだけの考え方ではなく、中間財務諸表を読む際にも注意が必要な要素です。
季節性を読む手順は、業種名から決めつけることではありません。対象企業自身の過去の数字と説明を使います。
- 過去3〜5期について、同じ四半期累計の利益を通期実績で割る
- 各期の決算説明から、繁忙期、納期、費用計上時期を確認する
- 今期と前年同期で、事業構成や会計期間が変わっていないか確かめる
- 今期の進捗率を、過去の同時点レンジと比べる
架空例として、ある会社の上期終了時点の営業利益進捗率が、過去3期で35%、42%、38%だったとします。今期が45%なら、単純な50%には届いていませんが、過去3期の同時点は上回っています。この場合、50%未満という一点より、例年より前倒しになった理由を決算説明で探す方が有用です。
反対に、過去3期が65%、62%、68%で、今期が50%なら、時間経過どおりでも過去パターンより遅れています。ただし、費用の先行計上、製品構成の変更、大型案件の納期移動など、会社が説明する要因まで確認してから整理します。
過去の比率は平均だけでなく、最小値、最大値、中央値も残すと、一期だけの異常値に引っ張られにくくなります。ただし、3期程度では標本が少なく、事業買収や事業売却で会社の構造が変われば、古い季節性は参考になりにくくなります。
会社予想の修正後は分母を更新する
進捗率の分母には、決算発表時点で有効な最新の通期会社予想を使います。期初予想が100億円でも、会社が120億円へ上方修正したなら、修正後の120億円が新しい分母です。
累計営業利益が60億円の架空例では、分母によって見え方が変わります。
| 分母 | 計算 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 修正前の通期予想100億円 | 60÷100 | 60% |
| 修正後の通期予想120億円 | 60÷120 | 50% |
会社が上方修正した結果、進捗率が60%から50%へ下がっても、実績が悪化したわけではありません。目標となる分母が大きくなったためです。進捗率を保存するときは、「累計実績」「最新通期予想」「予想の公表日」の3項目を一組にします。
東証の公式案内では、通期の売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益の予想について、直近予想から一定以上の差異が生じる場合の開示基準が示されています。また、通期以外の将来予測情報を会社が開示した場合も、投資判断に重要な影響を与える乖離があれば修正等の開示が必要とされています。修正理由については、抽象的な説明にとどめず、前提の変化や期中業績、セグメント別動向などを踏まえた具体的な説明が望ましいとされています。
進捗率の評価では、修正の有無だけでなく理由を読みます。販売数量の増加と、資産売却など一時的な要因では、翌期へのつながり方が異なります。上方修正があっても、どの利益段階が修正されたか、売上高も同時に変わったか、修正後の前提が何かを分けて記録します。
会社が通期予想を「未定」としている場合は、公式な分母がないため進捗率を計算できません。外部の予想値を会社予想のように代入せず、「会社予想未定のため算出不可」とします。レンジ予想の場合、正の範囲であれば下限と上限の両方を分母にした進捗率の幅として示し、単一値に丸めない方が前提を保てます。
前年同時点と過去数年を同じ条件で比べる
進捗率を読むときの比較順は、「25%刻み」より「前年同時点」、さらに「過去数年の同時点」を優先します。同じ会社の同じ時期なら、季節性をある程度そろえられるからです。
比較表には、少なくとも次の項目を置きます。
| 項目 | 今期 | 前期 | 確認すること |
|---|---|---|---|
| 対象期間 | 期首〜今回末 | 前年の同期間 | 月数が同じか |
| 累計営業利益 | 実績値 | 実績値 | 単位と連結範囲 |
| 最新通期予想 | 発表日時点 | 前年同日時点 | 期初予想との混同がないか |
| 進捗率 | 累計÷予想 | 累計÷予想 | 同じ式か |
| 通期着地 | 未確定 | 実績値 | 前年予想ではなく実績も見る |
| 主な要因 | 会社説明 | 会社説明 | 季節性か一時要因か |
前年の「その時点の会社予想」に対する進捗率は、当時の経営計画との距離を比べる指標です。一方、前年の「最終的な通期実績」に対する同時点累計の比率は、実際の利益の出方を比べる指標です。この2つは目的が違います。
たとえば、前年上期の営業利益が40億円、上期時点の通期予想が100億円、最終実績が80億円なら、当時の会社予想に対する進捗率は40%、最終実績に対する上期比率は50%です。どちらか一方だけを使うと、「計画に対する進み方」と「実際の季節配分」が混ざります。数値は架空です。
比較の途中で決算期が変更され、前年が12か月、今期が9か月や15か月になっている場合、通常の進捗率を横並びにできません。月数で単純補正しても、繁忙期を何回含むかが違えば季節性はそろいません。会社が組替え後の比較情報を出していればそれを優先し、なければ比較不能または参考値と明記します。
一時利益と会計基準差を分けて確認する
進捗率が急に高くなったときは、利益が継続的に積み上がったのか、一時要因が入ったのかを確認します。見る場所は、決算短信の「経営成績等の概況」、損益計算書、セグメント情報、重要な後発事象や同時開示資料です。
一時要因には、資産や事業の売却、補助金、保険金、減損、訴訟関連、組織再編費用などがあります。ただし、どの利益段階へ反映されるかは取引内容と会計基準、会社の表示によって異なります。「資産売却だから営業利益には入らない」と先回りせず、実際の損益計算書と注記を確認します。
架空例として、累計営業利益50億円のうち、会社説明で一過性の利益10億円が含まれると明示され、通期営業利益予想が100億円だったとします。公表値の進捗率は50%です。分析目的で一過性要因を除くなら40%になりますが、これは会社の公式指標ではありません。
公表値:50億円 ÷ 100億円 = 50%
分析上の参考値:(50億円-10億円)÷100億円=40%
参考値を示すときは、除外した項目、金額、根拠資料を併記し、「調整後進捗率」など公式値と区別できる名前を付けます。都合のよい費用だけを除外すると比較がゆがむため、採用ルールを各期でそろえます。
会計基準差にも注意が必要です。東証の決算短信参考様式は、日本基準、IFRS、米国基準などに分かれています。日本基準の「売上高」「経常利益」「親会社株主に帰属する当期純利益」と、IFRSの「売上収益」「税引前利益」「親会社の所有者に帰属する当期利益」などは、名称だけを置き換えて同じ指標とみなせません。営業利益を自主的に定義している会社では、計算に含める項目が会社ごとに異なる場合もあります。
会社間比較では、両社が「営業利益」と表示していても、注記や会社の定義式まで確認します。同じ会社が会計基準を変更した年度も、会社が示す組替え後の比較情報を優先します。比較可能性が確認できない場合は、進捗率の差を企業の優劣へ結び付けない方が安全です。
全社の進捗率が例年と違うときは、事業別の売上高、利益、全社費用を分けると原因を探しやすくなります。確認方法はセグメント情報の読み方を参照してください。
進捗率が使いにくい条件と確認表
進捗率は、正の通期予想と累計実績があり、期間と利益項目を対応できるときに使いやすい指標です。次の条件では、計算できても解釈が難しくなります。
- 通期予想が未定で、公式な分母がない
- 通期予想または累計実績が赤字で、符号により比率の向きが直感と合わない
- 前年が赤字、今期が黒字など、ゼロをまたいでいる
- 決算期変更で事業年度の月数が異なる
- 買収、売却、連結範囲変更で事業構成が大きく変わった
- 大型案件の検収など、利益計上が少数案件へ集中する
- 金融業など、一般事業会社の営業利益と同じ枠で比較しにくい
- 会計基準や指標定義が異なり、同名指標の中身をそろえられない
- 一時利益または一時費用の影響が累計実績の大部分を占める
たとえば、通期営業損失予想が10億円、期中の営業損失が4億円なら、符号を付けた割り算では40%になります。しかし、黒字計画の「40%達成」と同じ意味ではありません。赤字幅が会社想定より縮小しているのか拡大しているのかを、金額と会社説明で直接比べます。
決算を開いたら、次の順番で確認すると、進捗率だけに引っ張られにくくなります。
- 決算短信の表題、対象期間、会計基準、連結・非連結を確認する
- 累計実績と最新通期予想を同じ利益項目で抜き出す
- 予想修正の同時開示と公表日を確認する
- 進捗率を計算し、単位と式を記録する
- 前年同時点と過去数年の同時点を並べる
- 季節性、一時要因、事業構成変更を会社説明で確かめる
- 比較不能な条件があれば、無理に単一評価へまとめない
確認結果は、次の表のように「計算できるか」と「比較できるか」を分けて残します。
| 状況 | 進捗率の扱い | 次に確認する一次資料 |
|---|---|---|
| 正の通期予想があり、期間・利益項目も一致 | 算出して過去の同時点と比較する | 決算短信、決算説明資料 |
| 通期予想が修正された | 修正後予想で再計算し、公表日も記録する | 業績予想修正の適時開示 |
| 通期予想がレンジ | 下限・上限を使った幅で示す | 予想の前提、レンジ設定理由 |
| 通期予想が未定、またはゼロ | 算出不可とする | 予想未定の理由、今後の開示方針 |
| 赤字、決算期変更、大きな事業再編がある | 比率だけで評価せず、金額や会社説明を優先する | 損益計算書、注記、適時開示 |
| 一時要因が大きい | 公表値と分析上の参考値を分ける | 損益計算書、注記、発生理由の開示 |
進捗率は将来の通期着地や株価を示すものではありません。会社予想自体も、公表時点の前提に基づく将来情報です。比率を結論として使うのではなく、「例年と違うのはどこか」「分母は更新されたか」「利益の中身は同じか」を調べる索引として使うと、決算の読み方が安定します。
よくある質問
第1四半期の進捗率が25%未満なら計画未達ですか
25%未満というだけでは判断できません。過去3〜5期の第1四半期累計が通期実績の何%だったかを調べ、今期の事業構成、費用計上時期、会社説明と併せて比較します。
進捗率は売上高と営業利益のどちらで見るべきですか
両方を別々に見ます。売上高は販売の進み方、営業利益は原価や販管費を含む本業の採算を映します。売上高が先行して営業利益が遅い場合は、利益率低下や費用の前倒しがないかを確認します。
上方修正後に進捗率が下がったのは悪化ですか
必ずしも悪化ではありません。累計実績が同じでも、分母を大きい修正後予想へ更新すれば進捗率は下がります。修正前後の予想額、修正理由、公表日を一緒に記録してください。
通期予想が赤字や未定でも進捗率を出せますか
未定なら公式な分母がないため算出できません。赤字予想は割り算自体ができても、黒字計画の達成率と同じ意味にはならないため、損失額が会社想定より縮小したか拡大したかを金額で比べます。
決算短信と有価証券報告書はどこで確認できますか
決算短信や業績予想修正は、各社のIRサイトや東証の適時開示情報で確認します。有価証券報告書や半期報告書など、金融商品取引法に基づく開示書類は金融庁のEDINETで検索できます。媒体によって掲載する資料と開示時期が異なるため、進捗率の根拠には資料名と公表日も残します。
一次情報の確認メモ
以下は2026年7月23日に確認しました。更新の有無を再確認してください。
- 日本取引所グループ「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」:決算内容の開示、2026年7月版作成要領、第1・第3四半期と第2四半期(中間期)、会計基準別参考様式を確認。https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/index.html
- 日本取引所グループ「業績・配当予想修正等」:予想修正等の開示基準、通期以外の将来予測情報、修正理由の説明に関する取扱いを確認。https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge6851.html
- 日本取引所グループ「業績予想開示に関する実務上の取扱いの見直し」:業績予想が投資判断情報として利用されてきた経緯と、開示方法の柔軟化に関する公式資料の所在を確認。https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/forecast/index.html
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第33号 中間財務諸表に関する会計基準」:期首から6か月間の中間会計期間、著しい季節的変動、季節変動に関係する原価差異の取扱いを確認。https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=71
- 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第32号 中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」:中間財務諸表の会計処理を確認するときに参照する公式適用指針の本文と所在を確認。https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=78
- 金融庁「EDINETについて」:有価証券報告書や半期報告書など、金融商品取引法に基づく開示書類を提出・閲覧する電子開示システムの役割を確認。https://www.fsa.go.jp/search/20130917.html
記事の内容を手元で確かめる
入力値はこのページ内だけで計算し、外部へ送信・保存しません。
決算スコア計算
同一企業の前年差を整理する汎用モードです。6軸を別々に見せ、総合点だけで良否や売買を判断しません。
配点版: generic-yoy-v1
入力済み軸の平均: 未計算
- 収益成長: 不明(分母から除外)
- 採算: 不明(分母から除外)
- 現金: 不明(分母から除外)
- 進捗: 不明(分母から除外)
- 資本効率: 不明(分母から除外)
- バリュエーション: 不明(分母から除外)
初版の区分と限界
変化率等は -10未満=0、-10〜0=1、0〜5=2、5〜10=3、10〜20=4、20以上=5の共通仮区分です。PERのみ方向を反転した参考区分です。業種差・会計基準差を吸収しないため、実務では公開済みの定義表と一次資料を併用してください。