PERは株価を1株当たり利益で割った倍率です。ただし、PERが高いか低いかだけでは、利益成長への期待をどこまで織り込んでいるかは分かりません。この記事では、株価とEPSの基準日をそろえ、EPS成長率を計算し、補助指標であるPEGレシオと感応度表まで自分で作れるようにします。先に結論を言えば、PERと成長率は「どの時点の株価か」「実績か予想か」「何年間の成長か」をそろえて初めて比較できます。
本記事は一般的な情報提供を目的とした記事であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。計算例はすべて説明用の架空データです。PERとPBRの基本を先に確認したい方はPER・PBRの見方、会社予想の性質は業績予想と上方・下方修正の読み方、決算全体の確認順は決算短信の読み方入門も参照してください。
PERは株価と1株当たり利益の組み合わせ
日本取引所グループ(JPX)の用語集では、PER(株価収益率)は株価を1株当たり当期純利益で除したものと説明されています。本稿では次の式を使います。
PER(倍)=株価(円)÷ EPS(円/株)
たとえば、ある日の株価が3,000円、同じ計算に採用するEPSが150円なら、PERは20倍です。
3,000円 ÷ 150円/株 = 20倍
「20倍」は、株価が採用EPSの20倍に相当するという倍率です。20年で投資額を回収できるという約束ではありません。利益の全額が株主へ配られるわけではなく、将来の利益、配当、金利、財務状態、事業リスク、市場の需給なども株価に影響するためです。
PERを記録するときは、倍率だけでなく次の4点を同じ行に残します。
- 株価の基準日と、終値・リアルタイム値などの種類
- EPSの対象期間
- EPSが実績、会社予想、市場予想のどれか
- 基本的EPSか、潜在株式調整後EPSか
同じ会社でも株価は日々動き、EPSも決算発表や業績予想の修正で変わります。異なるサイトのPERを比べる前に、計算の分子と分母が同じ基準かを確かめる必要があります。
なお、企業会計基準委員会(ASBJ)の企業会計基準第2号は、1株当たり当期純利益と潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定方法を定めています。同基準では、基本的EPSの算定に期中平均株式数を用い、算定の基礎を開示します。期末の発行済株式数で純利益を単純に割った自作値と、開示されたEPSが一致しないことがあるのはこのためです。新株発行、自社株買い、株式分割、転換社債や新株予約権などがある会社では、EPSの前提を特に確認します。
実績PERと予想PERを混ぜない
PERには、過去の確定利益を使う実績PERと、将来の予想利益を使う予想PERがあります。名称が同じでも、見ている期間は異なります。
- 実績PER:基準日の株価を、直近に確定した実績EPSなどで割る
- 予想PER:基準日の株価を、今後の会社予想EPSや市場予想EPSなどで割る
JPXが公表する規模別・業種別PER・PBRについて、JPXの統計資料FAQは実績ベースだと明記しています。また、1株当たり当期純利益がマイナスの場合、PERは算出不能として「-」になると説明しています。一方、証券情報サービスの銘柄画面では会社予想や市場予想を使う場合があります。業界平均と個別銘柄を比べるなら、双方を実績同士または予想同士にそろえます。
次の架空例では、基準日の株価を3,000円、前期の実績EPSを120円、今期の会社予想EPSを150円とします。
| 指標 | 採用値 | 計算結果 |
|---|---|---|
| 実績PER | 3,000円 ÷ 120円 | 25倍 |
| 予想PER | 3,000円 ÷ 150円 | 20倍 |
予想PERの方が低いのは、今期EPSが増えるという会社予想を分母に置いたためです。しかし、会社予想は確定値ではありません。JPXの上場会社向けFAQは、業績予想を合理的に仮定した条件に基づく数値であり、達成を約束する趣旨ではなく、進捗に応じた修正が予定されるものと説明しています。したがって、予想PERには「予想が変われば倍率も変わる」という条件が付いています。
市場予想を使う場合は、予想の提供者、集計日、対象期間、更新時刻も必要です。会社予想と市場予想は作成者も前提も違うため、片方のPERともう片方の成長率を組み合わせません。出所が確認できない予想値は採用せず、「※要確認」として保留します。
成長率は期間と利益の種類を固定する
PERと組み合わせる成長率には、売上高成長率ではなく、原則としてPERの分母と対応するEPS成長率を使います。本稿の1期成長率は次の式で計算します。
EPS成長率(%)=(当期EPS ÷ 前期EPS - 1)× 100
前節の架空例なら、前期実績EPS120円から今期予想EPS150円への成長率は25%です。
(150円 ÷ 120円 - 1)× 100 = 25%
ここで「前期実績から今期会社予想」という組み合わせを明示することが重要です。実績同士の過去成長率と、予想を含む将来成長率は意味が違います。過去に成長した事実は将来の成長を示すものではなく、予想成長率は未確定です。
複数年を比べる場合は、単純に期首から期末までの増加率を年数で割らず、年平均成長率(CAGR)を使う方法があります。
EPSのCAGR(%)={(最終年度EPS ÷ 初年度EPS)の(1 ÷ 年数)乗 - 1}× 100
初年度EPS100円、3年後のEPS172.8円なら、CAGRは20%です。100円が毎年20%ずつ増えると、3年後は172.8円になるためです。単年成長率25%と3年CAGR20%を同じ列で比較すると期間がずれるので、表の見出しに「1期予想」や「過去3年CAGR」と書きます。
成長率を作る前には、次も確認します。
- 親会社株主に帰属する当期純利益など、利益の定義が各期で同じか。
- 基本的EPSと潜在株式調整後EPSを混ぜていないか。
- 株式分割が過年度EPSへ遡及反映されているか。
- 会計期変更で12か月と変則期間を比べていないか。
- 一時的な売却益、減損、税効果などが増減を大きくしていないか。
- 会計方針や連結範囲の変更で比較可能性が下がっていないか。
純利益が増えても、自社株買いで期中平均株式数が減ればEPSはそれ以上に伸びることがあります。反対に、新株発行やストックオプションの行使などで株式数が増えれば、純利益が伸びてもEPS成長率は鈍る場合があります。PERと成長率を一緒に読む目的は、会社全体の利益だけでなく、1株当たりの利益がどう変化したかをそろえて見ることです。
ここまでの指標を、何を確認するために使うかで整理すると次のようになります。
| 指標 | 主に確認すること | 最低限そろえる条件 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 実績PER | 確定した利益に対する株価倍率 | 株価基準日、直近実績EPS | 将来の増益・減益を直接は表さない |
| 予想PER | 予想利益に対する株価倍率 | 株価基準日、予想主体、予想対象期 | 業績予想の修正で変わる |
| 1期EPS成長率 | 前期から次期への1期の変化 | EPSの種類、実績・予想の区別 | 一時要因や低い基準値の影響を受ける |
| EPSのCAGR | 複数年を年率換算した変化 | 初年度、最終年度、年数 | 途中の変動を隠すため各年の推移も必要 |
| PEGレシオ | PERをEPS成長率と並べた補助比較 | PERと成長率の種類・期間・予想主体 | 統一定義ではなく、赤字・減益時は扱いにくい |
PEGレシオは採用した定義を先に書く
PEGレシオは、PERをEPS成長率で割り、利益成長に対する株価倍率を整理する補助指標です。ただし、取引所のPERのように一つの公的な統一定義がある指標として扱わない方が安全です。実務では、実績PERか予想PERか、1期成長率か複数年予想成長率かにより結果が変わります。
本稿では、次の式を採用します。
PEGレシオ = 予想PER(倍)÷ EPS成長率(%の数値)
成長率25%は小数の0.25ではなく、百分率の数値「25」を式へ入れます。前節の予想PER20倍とEPS成長率25%なら、PEGレシオは0.8です。
20 ÷ 25 = 0.8
この0.8は採用した株価、会社予想EPS、1期成長率を前提にした計算結果にすぎません。「1未満なら買い」「1を超えたら売り」のような売買判定にはしません。企業の資本構成、利益率、キャッシュ・フロー、成長の持続性、金利、業界の景気循環、予想の信頼性を式に含んでいないからです。
PEGを記録する表には、最低でも次の列を置きます。
| 基準日 | 株価 | PERの種類 | EPSの組み合わせ | 成長期間 | 成長率 | PEG |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 架空例の基準日 | 3,000円 | 会社予想PER | 前期実績120円→今期予想150円 | 1期 | 25% | 0.8 |
別の資料が「今後3〜5年の市場予想EPS成長率」を使っていれば、同じ会社でもPEGは変わります。数値だけを転記せず、その資料が採用したPER、EPS、期間、予想主体を脚注まで確認します。日本企業の適時開示資料でもPEGを「PER÷EPS成長率」とする例は確認できますが、その企業独自の株主還元判断や評価基準まで他社へそのまま適用する根拠にはなりません。
感応度表で予想のずれを見えるようにする
予想EPSは一点だけを信じるのではなく、前提が変わった場合のPERとPEGを並べると、評価がどれほど予想に依存しているかが見えます。株価3,000円、前期実績EPS120円を固定し、今期EPSを複数置いた架空の感応度表を作ります。
| 今期EPSの仮定 | EPS成長率 | 予想PER | PEG |
|---|---|---|---|
| 132円 | 10% | 約22.7倍 | 約2.27 |
| 144円 | 20% | 約20.8倍 | 約1.04 |
| 150円 | 25% | 20.0倍 | 0.80 |
| 156円 | 30% | 約19.2倍 | 約0.64 |
計算途中では小数を保持し、表示だけPERは小数第1位、PEGは小数第2位に丸めています。単位は株価とEPSを円、成長率を%、PERを倍に統一しました。
この表では、株価を固定したままEPS予想を上げるほど、分母が増えるためPERは下がります。同時に成長率も上がるためPEGはさらに下がります。つまりPEGは利益予想の変更に対して大きく動きやすい指標です。予想EPSが少し変わるだけで評価の印象が変わるなら、単一のPEGを精密な答えとして扱うべきではありません。
実際の検討では「会社予想」「慎重ケース」「強気ケース」を置き、それぞれの根拠を決算短信や説明資料の販売数量、単価、為替、費用などへ結び付けます。根拠なく都合のよい成長率を置くと、PEGは望む結論に合わせて動かせてしまいます。株価も基準日が変われば動くため、後日更新するときは株価と開示資料の確認日を一緒に更新します。
赤字・減益・業界差があるときの限界
PEGを計算できない、または計算しても解釈しにくい代表例は次のとおりです。
EPSがゼロまたは赤字
EPSがゼロならPERの分母がゼロになり、赤字ならPERは通常の倍率として解釈しにくくなります。JPXの規模別・業種別統計も、1株当たり当期純利益がマイナスならPERを算出不能としています。赤字企業に負のPERや負のPEGを表示しても、黒字企業の正の倍率と大小比較はできません。
EPS成長率がゼロまたはマイナス
成長率が0%ならPEGはゼロ除算になります。減益で成長率がマイナスならPEGも負になる場合がありますが、値が小さいから評価が低いとは読めません。減益時はPEGを「算出対象外」とし、減益理由、一時要因、回復計画、キャッシュ・フローなどへ戻ります。
赤字から黒字への転換
前期EPSがマイナスで今期EPSがプラスの場合、通常の増加率の式は直感に合う成長率を返しません。「黒字転換」と金額差を記録し、PEGは計算しない方が誤解を避けられます。ごく小さい黒字から利益が増える場合も成長率が極端に大きくなるため、基準年の利益水準を併記します。
一時利益や株式数の変動が大きい
資産売却益や税効果でEPSが一時的に増えた場合、翌期に反動減が起きることがあります。大規模な自社株買いや増資でも1株当たり利益の動きは変わります。調整後利益を使うなら会社独自指標と会計基準上の利益を分け、調整項目を明記します。
業界や事業段階が異なる
銀行、保険、商社、製造業、SaaSなどでは、利益の安定性、必要資本、景気感応度、投資負担が異なります。成長率が同じでも、その持続性とリスクは同じではありません。業界をまたぐ単純比較より、同業内で会計基準、決算期、成長期間をそろえた比較を優先します。それでもPERやPEGだけで順位を決めず、利益率、財務状態、営業キャッシュ・フロー、資本効率も確認します。
実務で使う確認手順と一次情報
PERを成長率と一緒に読むときは、次の順序なら計算条件の混在を減らせます。
- 株価の基準日と価格の種類を決める。
- 企業IRの決算短信で実績EPSと予想EPSを確認する。
- 基本的EPSか潜在株式調整後EPSか、対象期間と単位をそろえる。
- 実績PERまたは予想PERを計算し、どちらかを明記する。
- 1期成長率または複数年CAGRを選び、期間を明記する。
- PEGの式へ入れたPERと成長率の出所を同じ表に残す。
- EPSを複数ケースに動かし、PERとPEGの感応度を確認する。
- 赤字、減益、会計期変更、一時利益、株式数変動があれば計算を保留する。
- 同業比較では基準日、会計基準、予想主体、成長期間をそろえる。
- 最後に決算全体とリスク要因を読み、単一指標で結論を出さない。
数値の出所は、更新時点を確認できる企業IR、TDnet、EDINETを優先します。TDnetでは決算短信や業績予想の修正などの適時開示を、EDINETでは有価証券報告書などの法定開示を確認できます。決算短信の予想EPSを使う場合は、その後に業績予想の修正や株式分割が公表されていないかも同じ会社コードで検索します。EPSと株式数の関係を詳しく確認したい場合はEPSと発行済株式数の読み方、PERをROE・PBRとつなげて考える場合はPBR・ROE・PERの分解も参照してください。
よくある質問
PEGレシオは何倍なら割安ですか
一律の基準はありません。PEGは採用するPER、成長率、予想期間で変わり、財務状態や成長の持続性も式に含みません。「1未満」などの数値だけで売買を判断せず、同じ定義での比較と感応度の確認に使います。
PERとPEGレシオの違いは何ですか
PERは株価をEPSで割った倍率です。PEGは、そのPERをEPS成長率で割った補助指標です。PEGには成長率の前提が一つ増えるため、PER以上に入力条件を明記する必要があります。
EPS成長率は会社予想と実績のどちらを使いますか
目的に合わせて選びます。過去の確認なら実績同士、予想PERとの組み合わせなら前期実績と今期予想などを使い、予想主体と期間を明記します。実績PERと将来の市場予想成長率のように、基準の違う数値を無説明で混ぜないことが重要です。
赤字から黒字になった会社のPEGは計算できますか
通常の成長率では解釈しやすい値にならないため、本稿では計算対象外とします。「黒字転換」と利益額の変化を記録し、黒字が続くか、営業キャッシュ・フローや一時要因も確認します。
この記事で確認した一次情報は次のとおりです。確認日はすべて2026-07-23です。
- JPX「株価収益率」:PERを株価÷1株当たり当期純利益とする基本定義を確認。
- JPX「よくあるご質問(統計資料)」:東証公表の規模別・業種別PERが実績ベースであること、EPSがマイナスならPERが算出不能であることを確認。
- ASBJ「企業会計基準第2号 1株当たり当期純利益に関する会計基準」:基本的EPS、潜在株式調整後EPS、期中平均株式数、算定基礎の開示を確認。
- JPX上場会社向けナビゲーションシステム「将来予測情報の考え方」:会社の業績予想は合理的な仮定に基づき、達成を約束する趣旨ではないことを確認。
- TDnet掲載のUTグループ「自己株式の取得及び消却に関するお知らせ」(2023年5月15日):企業開示におけるPEGの採用例として、PER÷EPS成長率という式を確認。ただし、同資料固有の評価水準は本稿の判断基準に採用していません。
- JPX「TDnetの概要」:決算短信や業績予想の修正を含む適時開示資料の確認経路として参照。
- 金融庁「EDINETについて」:有価証券報告書などの法定開示資料を確認する公式経路として参照。
個別銘柄へ適用する際は、株価の基準日、最新の決算短信、業績予想の修正、株式分割などを企業IRとJPXの開示情報で改めて確認してください。PEGはPERに成長率の視点を足すための整理道具ですが、入力する予想が変われば結果も変わります。計算値より先に、どの数字を、いつの時点で、何年間の成長として使ったかを残すことが重要です。
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入力値はこのページ内だけで計算し、外部へ送信・保存しません。
2軸スコアカード
成長率と利益率の位置を、架空入力で整理します。位置は優劣や売買判断を表しません。
現在位置:成長率10%、利益率5%
比較対象、期間、会計基準、業種をそろえない数値比較には限界があります。
決算スコア計算
同一企業の前年差を整理する汎用モードです。6軸を別々に見せ、総合点だけで良否や売買を判断しません。
配点版: generic-yoy-v1
入力済み軸の平均: 未計算
- 収益成長: 不明(分母から除外)
- 採算: 不明(分母から除外)
- 現金: 不明(分母から除外)
- 進捗: 不明(分母から除外)
- 資本効率: 不明(分母から除外)
- バリュエーション: 不明(分母から除外)
初版の区分と限界
変化率等は -10未満=0、-10〜0=1、0〜5=2、5〜10=3、10〜20=4、20以上=5の共通仮区分です。PERのみ方向を反転した参考区分です。業種差・会計基準差を吸収しないため、実務では公開済みの定義表と一次資料を併用してください。