銘柄・業界分析

損益分岐点の計算方法|固定費と変動費を分ける

固定費と変動費の分け方、限界利益率、損益分岐点売上高の計算手順を、架空例と売上減少時の感応度比較で解説します。売上がどこまで下がると赤字になるかも確認できます。

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売上高が伸びても利益があまり増えない会社がある一方、売上高が少し増えただけで利益が大きく伸びる会社もあります。この違いを考える入口が、費用を固定費と変動費に分けて見る損益分岐点分析です。

損益分岐点は、将来の利益や株価を当てる指標ではありません。現在の費用構造を単純化し、「売上高がどこまで下がると利益がゼロになるか」「売上高の増減が利益へどの程度響くか」を同じ物差しで考えるための道具です。

この記事では、計算式を暗記するだけでなく、費用の分類、限界利益率の算出、決算資料から推計するときの限界、売上減少への感応度まで順に確認します。例に使う会社名と金額はすべて架空です。実在企業を分析するときは、会社が開示した会計方針、事業構成、季節性も併せて確認してください。

損益分岐点で分かること

損益分岐点売上高とは、売上高と費用が一致し、利益がちょうどゼロになる売上高です。売上高がこの水準を上回れば利益が出て、下回れば損失が出る、という境目を表します。中小企業庁の2025年版小規模企業白書でも、この意味で損益分岐点売上高が定義されています。

分析の出発点は、利益を次のように分解することです。

利益 = 売上高 − 変動費 − 固定費

変動費は売上高や販売数量の増減に応じて動く費用、固定費は一定の操業範囲では売上高が変わってもすぐには動かない費用です。売上高から変動費を引いた残りを「限界利益」と呼びます。

限界利益 = 売上高 − 変動費

利益 = 限界利益 − 固定費

利益がゼロになる点では、限界利益と固定費が等しくなります。この関係から、「固定費を回収するために必要な売上高」を逆算できます。

損益分岐点を見るときは、金額だけでなく損益分岐点比率も使います。

損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100

たとえば、実際の売上高が1,200万円、損益分岐点売上高が900万円なら、損益分岐点比率は75%です。売上高が現在の75%まで下がると利益がゼロになる、という単純化した見方です。反対に、100%へ近いほど現在の売上高と赤字転落の境目が近くなります。

ただし、比率の低さだけで会社の良し悪しは決まりません。研究開発や出店のために先行して固定費を負担している会社、成長投資を抑えて固定費を小さくしている会社、景気によって売上高が大きく変わる会社では、同じ比率でも意味が異なります。営業利益率の比較方法売上高と営業利益の伸び率も併せ、利益率の水準と変化を分けて読みます。

固定費と変動費を分類する

中小企業庁の法定経営指導員講習資料は、固定費を「売上の増減に関係なく、毎月一定でかかる費用」、変動費を「売上の増減に比例して変わる費用」と説明しています。また、企業会計基準委員会が掲載する原価計算基準では、固定費は操業度の増減にかかわらず変化しない原価要素、変動費は操業度の増減に応じて比例的に増減する原価要素とされています。

実務では、費目名だけで機械的に決めず、何に連動して発生するかを確かめます。

費用の例基本的な考え方分類時の注意
商品仕入高、原材料費販売数量や生産数量に連動する部分は変動費最低購入量、廃棄、在庫増減を分ける
配送費、決済手数料1件・1個・売上高に比例する部分は変動費基本料金があれば固定部分を分ける
店舗・事務所の賃料契約期間中に一定なら固定費売上歩合賃料は変動部分を含む
正社員の給与短期には固定費として扱うことが多い残業代、歩合給、賞与の業績連動部分を分ける
水道光熱費、通信費基本料金は固定、使用量部分は変動一つの請求額に固定・変動が混在する
広告宣伝費予算として固定する場合と販売件数に連動する場合がある運用型広告でも上限予算や最低契約を確認する
減価償却費保有設備に基づくため短期には固定費設備の追加、除却、償却終了で段階的に変わる

一つの費目に固定部分と変動部分が混ざる費用を「準変動費」または「混合費」と考えることがあります。たとえば電気料金が基本料金10万円に加え、生産1個当たり100円なら、10万円は固定費、100円×生産数量は変動費です。全額をどちらかへ押し込むと、限界利益率と損益分岐点がずれます。

固定費も永久に一定ではありません。店舗をもう1店借りる、工場の稼働班を増やす、一定の顧客数を超えてサーバー契約を上位プランへ変える、といった場面では階段状に増えます。したがって「現在の設備・人員・契約を維持できる売上範囲では固定」と、対象期間と操業範囲を定めます。

最初の分類では、次の順番で確認すると混乱を減らせます。

  1. 分析期間を月次、四半期、年次のどれかにそろえる。
  2. 費用が販売数量、売上高、生産時間など何に連動するかを決める。
  3. 契約書、請求明細、部門別データから固定部分と従量部分を分ける。
  4. 判断できない費用は仮分類であることを記録し、分類を変えた場合の幅も計算する。
  5. 前期と当期で同じ分類基準を使い、変更した場合は差分を残す。

業種でも分類は変わります。小売業の仕入れは変動費になりやすい一方、ソフトウェア企業では開発人員の給与やクラウドの最低契約額が固定費の大部分を占めることがあります。製造業では材料費だけでなく、歩留まり、外注加工費、動力費、設備償却などを操業度との関係で分けます。

限界利益率を計算する

費用を分けたら、売上高のうち固定費の回収と利益に使える割合である限界利益率を計算します。

変動費率 = 変動費 ÷ 売上高

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高

限界利益率 = 1 − 変動費率

架空の会社Aについて、年間売上高1億円、変動費6,000万円、固定費3,000万円とします。

項目金額売上高比
売上高1億円100%
変動費6,000万円60%
限界利益4,000万円40%
固定費3,000万円30%
利益1,000万円10%

会社Aの変動費率は60%、限界利益率は40%です。売上高が100万円増え、単価や商品構成、変動費率が変わらないと仮定すれば、限界利益は40万円増えます。固定費が同じ範囲なら、この40万円が利益の増加額になります。

限界利益率は売上総利益率と同じとは限りません。売上総利益率は、損益計算書上の売上高から売上原価を引いて計算します。一方、限界利益率は、売上原価か販売費及び一般管理費かにかかわらず、売上高に連動する費用を変動費として引きます。販売手数料が販売費及び一般管理費に含まれていても、売上高に比例するなら損益分岐点分析では変動費です。反対に、製造部門の減価償却費が売上原価に含まれていても、短期に生産量と連動しないなら固定費として扱う余地があります。

複数の商品や事業を持つ会社では、全社の限界利益率は商品構成によって変わります。限界利益率50%の商品と10%の商品があれば、同じ売上高でもどちらが多く売れたかで全社の限界利益は変わります。そのため、単一の限界利益率を将来へ延長する前に、セグメント別売上高、商品構成、値上げ、仕入価格の変化を確認します。

値引きにも注意が必要です。販売価格1,000円、1個当たり変動費600円なら、限界利益は400円、限界利益率は40%です。価格だけを900円へ下げ、変動費が600円のままなら、限界利益は300円、限界利益率は約33.3%へ下がります。売上高を維持するだけでは元の限界利益を保てず、販売数量を増やす必要があります。

損益分岐点売上高を求める

中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21は、損益分岐点売上高を次の式で示しています。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

会社Aの固定費は3,000万円、限界利益率は40%なので、損益分岐点売上高は次のとおりです。

3,000万円 ÷ 0.40 = 7,500万円

売上高が7,500万円なら、変動費は4,500万円、限界利益は3,000万円です。この限界利益と固定費3,000万円が等しくなるため、利益はゼロになります。

現在の売上高1億円に対する損益分岐点比率は75%です。

7,500万円 ÷ 1億円 × 100 = 75%

現在の売上高と損益分岐点売上高との差を「安全余裕額」、現在の売上高に対する割合を「安全余裕率」と呼ぶことがあります。

安全余裕額 = 実際の売上高 − 損益分岐点売上高

安全余裕率 = 安全余裕額 ÷ 実際の売上高 × 100

会社Aの安全余裕額は2,500万円、安全余裕率は25%です。これは「売上高が25%下がっても必ず安全」という保証ではありません。売上減少と同時に値下げ、仕入価格上昇、商品構成の悪化が起きれば、限界利益率も下がるからです。

目標利益を含む売上高も同じ考え方で逆算できます。

目標売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率

会社Aが利益1,500万円を目標にし、固定費と限界利益率が変わらないなら、必要売上高は1億1,250万円です。

(3,000万円 + 1,500万円)÷ 0.40 = 1億1,250万円

この式で分かるのは、仮定を維持した場合の必要売上高です。販売能力、市場規模、在庫、運転資金、追加人員は別に検討します。売上増加のために固定費を500万円増やすなら、式の固定費も3,500万円へ更新しなければなりません。

決算資料だけで推計する限界

上場会社の損益計算書は、通常、売上高、売上原価、売上総利益、販売費及び一般管理費、営業利益という区分で表示されます。しかし、この表示は固定費と変動費の区分ではありません。中小企業庁の経営助言資料も、損益計算書には各費用が変動費か固定費かは書かれておらず、実務では「固変分解」が必要だと説明しています。

公開決算から概算するときは、次の順で証拠を集めます。

  1. 有価証券報告書の損益計算書で、売上原価と販売費及び一般管理費の総額を確認する。
  2. 販売費及び一般管理費の注記から、人件費、広告宣伝費、研究開発費、減価償却費などの内訳を探す。
  3. 製造原価明細、セグメント情報、決算説明資料から、材料費、外注費、物流費、事業別の費用構造を探す。
  4. 年度だけでなく四半期や複数年度を並べ、売上高の変化に対して各費用がどう動いたかを見る。
  5. 会社が示すKPI、店舗数、人員数、生産量、契約件数など、費用の発生要因を確認する。

金融庁のEDINETタクソノミ資料でも、財務諸表本表に加えて、セグメント情報、売上原価の内訳、販売費及び一般管理費の内訳などが詳細タグ付けの対象として示されています。会社ごとに開示の細かさは異なりますが、損益計算書の合計額だけで止めず、注記や内訳まで検索する手掛かりになります。

それでも、外部の読者が正確な固変分解を再現できるとは限りません。売上原価に固定的な工場減価償却費が含まれ、販売費及び一般管理費に変動的な販売手数料が含まれることがあるためです。費目が一括表示されていれば、混合費を分けることもできません。

したがって、「売上原価は全額変動費、販売費及び一般管理費は全額固定費」と置く方法は、粗い仮定にすぎません。概算値を出す場合は「簡便法」と明記し、分類を変えた複数ケースを並べます。

分類できない費用をどう置くかでも結果は変わります。中小企業庁の事業継続計画策定運用指針は、固定費か変動費か不明な費用を固定費に算入すれば「固めの計算」になるとしています。ただし、これは唯一の正しい分類を示すものではありません。外部分析では、不明額を固定費へ置くケースと変動費へ置くケースの両方を計算し、損益分岐点の幅として示す方が仮定を追いやすくなります。

たとえば売上高1億円、売上原価6,000万円、販売費及び一般管理費3,000万円という会社でも、次の二つの仮定で結果は変わります。

仮定変動費固定費限界利益率損益分岐点売上高
売上原価を全額変動費とする6,000万円3,000万円40%7,500万円
売上原価のうち1,000万円を固定費とする5,000万円4,000万円50%8,000万円

同じ損益計算書でも、分類仮定により損益分岐点は500万円違います。どちらか一つを「正解」と断定せず、開示から確認できた部分、推定した部分、確認できない部分を分けます。決算短信を読む順番で全体をつかみ、決算説明資料の読み方で数量、単価、費用増減の説明を探すと、仮定の根拠を補いやすくなります。

また、事業買収、事業売却、会計方針変更、決算期変更、一時的な補助金や減損損失がある期間は単純比較に向きません。営業利益で分析するのか、経常利益まで含めるのかも先に固定します。本業の費用構造を見る目的なら、まず営業損益の範囲でそろえ、営業外損益や特別損益を混ぜない方が比較しやすくなります。

売上減少の感応度を比べる

損益分岐点分析の使い道は、一つの損益分岐点売上高を出すことより、売上高、限界利益率、固定費の仮定を変えて利益の振れ幅を見ることにあります。

架空の会社Bと会社Cは、どちらも売上高1億円、利益1,000万円です。ただし費用構造が異なります。

項目会社B会社C
売上高1億円1億円
変動費7,000万円3,000万円
限界利益率30%70%
固定費2,000万円6,000万円
利益1,000万円1,000万円
損益分岐点売上高約6,667万円約8,571万円

会社Cは限界利益率が高い一方、固定費も大きく、損益分岐点売上高が会社Bより高くなっています。売上高が10%減って9,000万円になり、限界利益率と固定費が変わらないと仮定すると、利益は次のようになります。

売上高9,000万円の場合会社B会社C
限界利益2,700万円6,300万円
固定費2,000万円6,000万円
利益700万円300万円
元の利益からの減少率30%70%

売上高は同じ10%減でも、会社Bの利益は30%減、会社Cは70%減です。固定費の比重が大きい会社は、損益分岐点を超えた後の売上増加局面では利益が大きく伸びやすい反面、売上減少局面では利益も大きく減りやすくなります。これを営業レバレッジと呼ぶことがあります。

一つのケースだけでは不十分なので、次のような感応度表を作ります。

ケース売上高限界利益率固定費利益
基準1億円40%3,000万円1,000万円
売上高10%減9,000万円40%3,000万円600万円
値下げ・原価高で率5ポイント低下1億円35%3,000万円500万円
売上高10%減かつ率5ポイント低下9,000万円35%3,000万円150万円
固定費500万円増1億円40%3,500万円500万円

売上高だけでなく限界利益率も悪化するケースを置くと、単純な「売上高が何%下がれば赤字か」より現実に近い幅が見えます。原材料価格、為替、値上げ、商品構成が動く会社では、限界利益率を一定とする前提が特に崩れやすいためです。

分析を更新するときは、売上高、販売数量、平均単価、変動費率、固定費を同じ表に記録します。前回の予想と実績の差も残し、「売上高の差」「限界利益率の差」「固定費の差」のどれが利益を動かしたかを確認します。損益分岐点は一度計算して終わる数値ではなく、費用構造や事業構成が変わるたびに更新する仮説です。

最後に、投資判断では損益分岐点だけを使わないことが重要です。借入金返済や設備投資に必要な現金は、損益計算上の利益と一致しません。在庫や売掛金が増えれば、利益が出ていても資金が減る場合があります。利益構造を確認した後は、キャッシュフロー、財務状態、成長投資、資本効率へ分析を広げます。

計算結果を読むときのまとめ

損益分岐点分析では、計算値と前提を同じ表に残します。数値だけを転記すると、限界利益率や固定費の置き方が変わったときに比較できなくなるためです。

確認項目計算・確認方法読み方主な注意点
限界利益率(売上高−変動費)÷売上高売上高のうち固定費回収と利益に回る割合値引き、原価、商品構成で変わる
損益分岐点売上高固定費÷限界利益率利益がゼロになる売上高の推計値固定費と限界利益率が一定という仮定を置く
損益分岐点比率損益分岐点売上高÷実際の売上高現在の売上高と赤字転落の境目の近さ業種や成長段階が違う会社を単純比較しない
安全余裕率(実際の売上高−損益分岐点売上高)÷実際の売上高売上高が損益分岐点を上回る幅売上減少時に限界利益率も悪化する場合がある
目標売上高(固定費+目標利益)÷限界利益率目標利益に必要な売上高の仮置き追加人員や設備で固定費が増えるなら再計算する

計算の順番は、「対象期間を決める」「費用を分類する」「限界利益率を出す」「損益分岐点を計算する」「前提を変えた感応度を比べる」の五段階です。実在企業では、算出した一つの値より、どの開示を根拠に何を仮定したかを残すことが重要です。

よくある質問

損益分岐点売上高は低いほど良いですか

同じ会社を同じ分類基準で時系列比較するなら、低下は赤字転落までの余裕が広がった可能性を示します。ただし、成長投資を抑えて固定費が減った場合も低くなるため、将来性や企業価値まで単独で判断はできません。

人件費は固定費と変動費のどちらですか

短期には、正社員の基本給は固定費として扱うことが多い一方、残業代、歩合給、派遣費用などは稼働量に応じて動く場合があります。雇用形態だけで決めず、分析期間内に何へ連動する費用かを確認します。

売上原価をすべて変動費にしてもよいですか

概算の出発点にはできますが、固定的な減価償却費や人件費が売上原価に含まれる会社では誤差が大きくなります。「売上原価を全額変動費とした簡便法」と明記し、注記や原価内訳を使った別ケースも並べます。

限界利益率と粗利率は同じですか

必ずしも同じではありません。粗利率は損益計算書の売上原価を使いますが、限界利益率は表示区分にかかわらず売上高や販売数量に連動する費用を差し引きます。販売手数料などが販売費及び一般管理費に含まれていれば差が生じます。

損益分岐点を超えれば資金繰りも安全ですか

そうとは限りません。損益分岐点は利益の分析であり、借入金の元本返済、設備購入、在庫や売掛金の増加による現金の動きは別です。営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローキャッシュ・コンバージョン・サイクルの計算も確認し、利益と資金繰りを分けて見ます。

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