銘柄・業界分析

PBRをROEとPERに分けて読む

PBRをROEとPERへ分解する式を、単位、基準時点、赤字、自己資本の定義差まで含めて解説し、架空例で比較の手順と限界を確認します。

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PBRは低いか高いかを見るだけでなく、利益を生む力と、その利益に対して株価が何倍まで評価されているかに分けると、数字の背景を確認しやすくなります。この記事では、PBR、ROE、PERの式を同じ単位へそろえ、架空データから「PBRが低い理由」を分ける手順を示します。個別銘柄の売買を勧めるものではなく、単一指標だけで将来の株価を判断するものでもありません。

先に結論を示すと、よく使われる関係は次のとおりです。

PBR ≒ PER × ROE

ただし、ROEは小数で入れます。ROEが10%なら「10」ではなく「0.10」です。また、一般に公表されるROEは期首・期末の平均自己資本を使う一方、PBRのBPSは期末時点の純資産を基にすることがあります。EPSは期中平均株式数、BPSは期末株式数を使うため、自己株式の取得や増資があると株式数もそろいません。そのため、上の式はいつでも厳密に一致する恒等式ではなく、利益、自己資本、株式数、株価の基準をそろえたときの分解として使います。

指標そのものの基本はPER・PBRの読み方、ROEとROICの役割の違いはROEとROICの違い、決算資料全体の確認順は決算書の読み方入門も参照してください。

PBR・PER・ROEを一つずつ式に戻す

日本取引所グループの株価検索の説明では、PBR、PER、ROEを次の形で示しています。

  • PBR(倍)=株価(円)÷1株当たり株主資本または純資産(円)
  • PER(倍)=株価(円)÷1株当たり利益(円)
  • ROE(%)=当期純利益÷期首・期末の平均株主資本×100

PBRは、株価が1株当たり純資産であるBPSの何倍かを見る指標です。株価1,500円、BPS1,000円なら、PBRは1.5倍です。株価とBPSはいずれも1株当たりの円なので、割った結果に円の単位は残らず「倍」になります。

PERは、株価が1株当たり利益であるEPSの何倍かを見る指標です。株価1,500円、EPS100円なら、PERは15倍です。こちらも円÷円なので単位は「倍」です。

ROEは、株主に帰属する利益を、その利益を生むための自己資本で割った資本利益率です。利益100億円、平均自己資本1,000億円なら、ROEは10%です。億円÷億円で単位が消え、百分率で表します。

ここで注意したいのが「純資産」「株主資本」「自己資本」という言葉です。日本取引所グループの用語集では、純資産を資産総額から負債総額を控除した金額と説明しています。一方、取引所規則上の純資産額の説明では、純資産の部から非支配株主持分を控除するなどの調整も示されています。決算短信の指標、企業独自のKPI、情報サイトの計算値が、常に同じ範囲を分母にしているとは限りません。比較前に資料の注記と算定式を確認します。

PBRをPERとROEへ分ける計算

式を単純化し、発行済み株式数をS、株主に帰属する利益をE、自己資本をB、株価をPと置きます。

  • EPS=E÷S
  • BPS=B÷S
  • PER=P÷EPS
  • PBR=P÷BPS
  • 利益率=E÷B

同じ利益、同じ自己資本、同じ株式数を使えるなら、次のように変形できます。

PER × 利益率 =(P÷EPS)×(E÷B)

さらにEPS=E÷Sを代入すると、P÷(E÷S)×E÷B=P×S÷Bです。BPS=B÷Sなので、これはP÷BPS、つまりPBRと一致します。

架空のA社を、株価1,500円、EPS100円、BPS1,000円とします。

指標計算結果
PER1,500円÷100円15倍
PBR1,500円÷1,000円1.5倍
EPS÷BPS100円÷1,000円0.10
分解15倍×0.101.5倍

この架空A社を10株保有する例に置き換えると、株価による評価額は15,000円、EPSの合計換算は1,000円、BPSの合計換算は10,000円です。これらは配当や実際の受取額を示す数字ではありません。

このEPS÷BPSは10%ですが、公表ROEと同じになるとは限りません。EPSの利益とBPSの自己資本を同一範囲・同一株式基準でそろえた「1株当たり数値から逆算した利益率」です。一般的なROEが期首・期末の平均自己資本を分母にするのに対し、BPSは特定の期末時点を使うためです。

したがって、実務では次の二段階に分けます。

  1. 株価、EPS、BPSからPBR=PER×(EPS÷BPS)を計算し、数式がそろうか確かめる
  2. EPS÷BPSと会社公表ROEの差を見て、平均自己資本、株式数、利益の範囲、決算期の違いを確認する

「PBR=PER×ROE」とだけ覚えるより、いったんEPS÷BPSへ戻す方が、混ざったデータを見つけやすくなります。

単位・基準日・利益定義をそろえる

分解で最も起こりやすい誤りは、異なる時点の数字を一つの式へ入れることです。日本取引所グループの株価検索は、PERとPBRについて前日終値を使い、1日1回更新すると案内しています。また、同サイトの指標説明では、決算短信の実績EPS、実績BPS、実績ROEを使用するとしています。現在の株価に来期予想EPSを組み合わせた予想PERと、前期末の実績BPSによる実績PBRでは、利益の期間が異なります。

比較表には最低でも次の列を残します。

項目記録する内容混在を防ぐ理由
株価終値と日付株価は日々変わるため
EPS実績か予想か、対象期間PERの利益期間を固定するため
BPS期末日、連結か単体かPBRの資本時点を固定するため
ROE実績か会社目標か、算定式平均自己資本か期末自己資本かを分けるため
株式数期中平均か期末かEPSとBPSの分母が違うため
会計基準日本基準かIFRSか等利益・持分の表示名や範囲を確認するため

企業会計基準委員会の「1株当たり当期純利益に関する会計基準」では、基本的なEPSを、普通株式に係る当期純利益を普通株式の期中平均株式数で除して算定すると定めています。期中に自社株買い、増資、株式分割などがあれば、期中平均株式数と期末株式数は一致しないことがあります。株式数の違いをさらに確認するときは、EPSと株式数の関係も参照してください。

たとえば、期中に自己株式を大きく取得すると、EPSの分母となる期中平均株式数には取得前の期間も反映されます。一方、期末BPSの計算には期末時点の自己株式控除後の株式数が使われます。利益と自己資本が変わっていなくても、分母の取り方だけでEPS÷BPSと公表ROEに差が出る可能性があります。

予想値を使う場合も同じです。予想PER、実績PBR、実績ROEを並べて「式が合わない」とするのではなく、予想EPSを使ったPERなら、分解相手の利益率も予想利益と対応する自己資本を使った推計値として明示します。会社が期末自己資本予想を公表していなければ、厳密な予想ROEは計算できません。直近BPSで代用する場合は「直近実績BPSを使用した推計」と記し、公式の予想ROEとみなしません。

赤字・債務超過・一時利益では分解を止める

式が計算できることと、比較に意味があることは別です。特に赤字企業では、EPSとROEがマイナスになります。株価が正ならPERは負の値になりますが、「利益の何年分」というPERの通常の読み方が成り立ちません。情報サイトでPERが表示されない場合もあります。負のPERと負のROEを掛けると正のPBRになることはありますが、その積を通常の評価として解釈するのは避けます。

架空のB社を株価600円、EPSマイナス50円、BPS1,000円とします。計算上、PERはマイナス12倍、EPS÷BPSはマイナス5%、PBRは0.6倍です。マイナス12×マイナス0.05=0.6とはなります。しかし、赤字が一過性か構造的か、黒字へ戻る時期と根拠は何かを、この分解だけでは判断できません。赤字企業はPERによる分解を止め、売上、営業損益、営業キャッシュフロー、自己資本の変化を別々に確認します。

自己資本やBPSがマイナスの債務超過でも、PBRの通常の比較は使いにくくなります。分母がマイナスになるため、PBRの大小を黒字・正の自己資本の企業と同じ物差しで並べられません。自己資本が非常に小さい場合も、わずかな利益や損失でROEが大きく振れます。

黒字でも、一時的な資産売却益や税効果によって当期純利益が膨らんだ場合は注意が必要です。EPSとROEが一時的に上がり、PERが下がって見える可能性があります。分解表には、継続事業の利益、特別損益、法人税等、非支配株主に帰属する利益を確認したか記録します。日本基準とIFRSでは表示科目が同じとは限らないため、名称だけで機械的に対応させず、各社の計算根拠を優先します。

PBRが低い理由を資産の質まで掘る

PBRが同じ企業でも、ROEとPERの組合せは異なります。次の数値はすべて説明用の架空例です。

企業PBRPEREPS÷BPS分解から最初に確認すること
C社0.6倍30倍2%資本に対して利益が小さい理由
D社0.8倍8倍10%低いPERの背景と利益の持続性
E社1.5倍15倍10%成長期待と現在利益の釣り合い
F社2.0倍10倍20%高ROEの源泉と財務レバレッジ

C社はPBRが最も低いものの、EPS÷BPSも2%と低い設定です。多くの自己資本を持ちながら利益へ結び付いていない可能性を先に調べます。D社はPBRが1倍を下回っていますが、利益率は10%あります。市場が利益の減少、一時要因、事業リスクなどを織り込んでPERを低くしている可能性を調べます。ただし、表だけで市場の理由を断定はできません。

F社の20%も、そのまま高評価にはしません。利益が大きい場合だけでなく、自己資本が小さい場合にもROEは高くなります。借入金が多い、自己株式取得で自己資本が減った、大きな減損で資本が縮小したといった要因がないか、貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書を確認します。

さらに、BPSは貸借対照表上の金額を基にする指標であり、会社の資産を今すぐ処分した場合の受取額を保証するものではありません。現金、売掛金、棚卸資産、有形固定資産、のれん、投資有価証券などは、換金性、収益への寄与、評価変動の可能性が異なります。「PBRが1倍未満だから株価が解散価値を下回り、下げ止まる」とは言えません。

また、東京証券取引所が上場会社へ求める「資本コストや株価を意識した経営」も、PBRを一時的に1倍以上へ動かすことだけを目的としていません。自社の資本コストや資本収益性を把握し、取締役会で分析・評価したうえで改善計画を開示し、投資者との対話を通じて継続的に更新する一連の対応を示しています。PBR1倍は機械的な合否線ではなく、収益性、成長期待、資本コスト、資産配分を調べる入口として扱います。

資産の質を見るときは、少なくとも次を確認します。

  • 現金及び預金と有利子負債の両方
  • 売上債権や棚卸資産の増減と回収・販売の状況
  • 有形固定資産が生む利益と減損の履歴
  • のれんや無形資産の金額と減損リスク
  • 政策保有株式など投資有価証券の規模
  • 非支配株主持分を含むかどうか

のれんの確認方法はのれんと減損リスク、現金と有利子負債を差し引いて見る方法はネットキャッシュの計算で詳しく解説しています。

PBRの分解は、安さを証明する作業ではありません。「資本効率が低いのか」「利益への評価が低いのか」「両方なのか」という次の調査先を決める作業です。

分解表を作る手順と判断できないこと

実際の決算で使うときは、次の順で1社ずつ表を作ります。

  1. 決算短信または有価証券報告書から、対象期、会計基準、親会社株主に帰属する利益、EPS、BPS、ROEを転記する
  2. 株価の基準日と終値を記録する
  3. 株価÷EPSでPER、株価÷BPSでPBRを同じ株価から再計算する
  4. EPS÷BPSを小数で計算し、PER×(EPS÷BPS)がPBRと一致するか確かめる
  5. EPS÷BPSと公表ROEの差を、平均自己資本、株式数、利益範囲、丸めから確認する
  6. 前年と同業他社でも同じ定義をそろえ、資産構成と利益の持続性を読む

計算結果がわずかに違う場合は、まず公表値の丸めを確認します。大きく違う場合は、予想と実績の混在、連結と単体の混在、株価日付の違い、株式分割の未調整、EPSとBPSの株式数差を疑います。差を無理にゼロへ合わせず、使った数値と出典を残します。

この方法でも、将来利益、資本コスト、事業の競争力、経営者の資本配分、株価の上昇・下落は確定できません。同じPBRでも事業内容とリスクは異なり、同じ業界でも会計方針や決算期が違う場合があります。「PBRが1倍未満」「ROEが何%以上」といった一本の線だけで企業を選ばず、複数年の変化と一次資料の説明を組み合わせます。

最終的には、PBRを答えとして扱うのではなく、次の三つの問いへ分けます。

  • 現在の利益は、自己資本に対してどの程度か
  • その利益に対して、株価は何倍に評価されているか
  • 利益と自己資本の定義、基準時点、資産の質は比較可能か

この三つへ戻せれば、PBRの高低だけで終わらず、決算資料のどこを次に読むべきかが明確になります。

PBR・ROE・PERのよくある質問

PBR=PER×ROEは必ず一致しますか

同じ利益、自己資本、株式数、株価の基準を使えば一致します。ただし、公表ROEは期首・期末の平均自己資本、BPSは期末純資産、EPSは期中平均株式数を使うことがあるため、実際の公表値では差が出ます。まずPBR=PER×(EPS÷BPS)で基準をそろえて確認します。

ROEが10%のとき、計算には10と0.10のどちらを使いますか

0.10を使います。たとえばPERが15倍なら、15×0.10=1.5でPBRは1.5倍です。10を掛けると百分率と小数が混在し、100倍の誤りになります。

PBRが1倍未満なら割安ですか

それだけでは判断できません。低いROE、将来減益への懸念、資産の換金性、のれんの減損、財務リスクなどが反映されている場合があります。利益の持続性と資産構成を確認し、同じ定義で過去推移や同業他社と比べます。

赤字企業でもPBR=PER×ROEを使えますか

計算上は積が合う場合がありますが、負のPERは「利益の何年分」という通常の意味を持ちません。赤字企業ではこの分解による評価を止め、営業損益、営業キャッシュフロー、自己資本の変化を個別に確認します。

予想PERと実績ROEを掛けてもよいですか

対象期間が異なるため、そのまま掛けるのは避けます。予想PERには予想利益と対応する自己資本の推計が必要です。期末自己資本の予想がなければ、直近BPSを使った参考計算であることを明記します。

一次情報の確認メモ

以下は2026年7月23日に確認しました。

公開前の要確認事項:各社開示で用いる「自己資本」「親会社所有者帰属持分」「株主資本」の対応は会計基準と資料ごとに異なるため、実在企業の比較へ進む際は各社の算定注記を再確認すること。予想PERと予想ROEを扱う場合も、利益予想の作成主体、対象期間、期末自己資本の推計方法を明示すること。

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2軸スコアカード

成長率と利益率の位置を、架空入力で整理します。位置は優劣や売買判断を表しません。

成長率と利益率の2軸カード 成長率10%、利益率5%の位置を点で示します。 成長率 →利益率 →

現在位置:成長率10%、利益率5%

比較対象、期間、会計基準、業種をそろえない数値比較には限界があります。

決算スコア計算

同一企業の前年差を整理する汎用モードです。6軸を別々に見せ、総合点だけで良否や売買を判断しません。

収益成長
採算
現金
進捗
資本効率
バリュエーション
6軸のレーダー風表示 収益成長、採算、現金、進捗、資本効率、バリュエーションを0点から5点で示します。 収益成長採算現金進捗資本効率バリュエーション

配点版: generic-yoy-v1

入力済み軸の平均: 未計算

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  • 採算: 不明(分母から除外)
  • 現金: 不明(分母から除外)
  • 進捗: 不明(分母から除外)
  • 資本効率: 不明(分母から除外)
  • バリュエーション: 不明(分母から除外)
初版の区分と限界

変化率等は -10未満=0、-10〜0=1、0〜5=2、5〜10=3、10〜20=4、20以上=5の共通仮区分です。PERのみ方向を反転した参考区分です。業種差・会計基準差を吸収しないため、実務では公開済みの定義表と一次資料を併用してください。