銘柄・業界分析

決算スコアの作り方と限界

決算の複数指標を同じ物差しで整理するために、入力値、配点、欠損処理、業界差、版管理、過去検証までを具体例で解説します。点数を企業価値と混同しない読み方も整理します。

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決算スコアは、売上高や利益率など複数の数字を、毎回同じ順序で確認するための整理表です。この記事では、架空企業の6指標を0〜2点で採点し、欠損値を除いた100点換算まで自分で再現できる形にします。点数は企業の価値や将来の株価を示すものではありません。元資料、計算式、配点、基準日、版番号を残し、決算を読み落とさないための補助線として使います。

先に全体像をつかみたい場合は決算書の読み方入門、会社予想の扱いは業績予想の読み方を参照してください。本記事は、それらの確認結果を一つの表へまとめる工程を扱います。

決算スコアの目的を「比較」ではなく「確認の固定」に置く

スコアを作る最初の目的は、企業を一列に並べて順位を付けることではありません。「前回は利益だけを見たが、今回はキャッシュフローも見た」という確認項目の揺れを減らすことです。点数へ変換する前に、次の三つを分けます。

  • 公表値:決算短信、有価証券報告書、決算説明資料などに会社が記載した値
  • 計算値:公表値から自分が同じ式で計算した伸び率、利益率、進捗率など
  • 評価点:計算値を、自分で事前に決めた基準へ当てはめた0〜2点

この区別がないと、会社が公表した数字と自作の判断が混ざります。表には「出典資料名」「公表日」「対象期間」「会計基準」「連結・個別」「単位」「取得日」を設け、評価点とは別の列へ保存します。

東京証券取引所は、上場会社に対して、事業年度や連結会計年度の決算内容などが定まった場合に直ちに開示することを求め、決算短信の作成要領と参考様式を掲載しています。一方、金融庁のEDINETは、金融商品取引法に基づく有価証券報告書などの提出から公衆縦覧までを電子化したシステムです。速報性のある決算短信と、注記を含む法定開示書類は役割が異なるため、スコアの元資料を「決算」とだけ書かず、どの文書のどの期かまで固定します。

スコアの用途も先に一文で宣言します。たとえば「決算発表後に6項目を同じ順番で確認し、追加調査が必要な箇所を見つけるため」とします。「点数が高い企業の株価が上がる」とは置きません。株価には決算以外の情報、発表前の期待、金利、市場環境なども影響し、このスコアだけで因果関係を切り分けられないからです。

入力指標は6軸に絞り、元の数字を残す

初稿用の例では、成長、採算、計画、現金、1株価値、資本効率の6軸を使います。これは公的機関が定めた標準スコアではなく、本記事で説明する自作例です。企業の開示内容に合わせて指標を変更できますが、比較の途中で都合よく差し替えないよう、変更前の版も残します。

入力する値基本の計算主な確認点
成長売上高の前年同期比当期売上高 ÷ 前年同期売上高 − 1会計期間、事業譲渡、為替影響
採算営業利益率の前年差営業利益 ÷ 売上高会計基準、会社独自指標、一時費用
計画通期会社予想への進捗累計実績 ÷ 通期会社予想季節性、予想修正、赤字予想
現金営業キャッシュフロー当期値と前年同期値を併記運転資本、税金、期ずれ
1株価値基本的EPSの伸び当期EPS ÷ 前年同期EPS − 1希薄化、株式分割、一時利益
資本効率会社開示のROICまたはROE会社の定義式を優先分母、税率、平均残高、金融業

売上高、営業利益、EPSなどを同じ列へ入れると、円、百万円、円/株、パーセントが混ざります。元データ表では単位を保ち、別の計算列で伸び率や前年差へ変換します。前年同期比を使う場合は、当期が3か月累計なら前年も同じ3か月累計にそろえます。決算期変更や会計方針変更があれば、機械的な前年同期比を採点せず「比較不能」とします。

EPSについて、企業会計基準委員会の企業会計基準第2号は、1株当たり当期純利益を「普通株式に係る当期純利益÷普通株式の期中平均株式数」で算定するとしています。期末の発行済株式数で単純に割るのではありません。また、基本的EPSと潜在株式調整後EPSは別項目です。スコアではどちらを使うかを固定し、混在させません。EPSの背景を確認するときはPER・PBRの読み方も参照できます。

キャッシュフローについて、企業会計基準委員会が公開する連結キャッシュ・フロー計算書作成基準は、営業活動、投資活動、財務活動の三つの区分を設けるとしています。営業キャッシュフローがプラスという一点だけで評価せず、売上債権、棚卸資産、仕入債務、税金などによる変動も注記で確認します。フリーキャッシュフローは統一された一つの公表値だと決めつけず、自作する場合は「営業CF+投資CF」または「営業CF−設備投資額」など採用式を明記します。

ROICは会社ごとの定義差が大きいため、会社が定義を開示しているときは、その式と対象期間を記録します。独自に推計するなら公表ROICとは別列に置きます。ROEとROICの違いはROEとROICの違いで確認してください。

配点を公開し、総合点より内訳を先に見る

ここでは各軸を0点、1点、2点で評価し、最大12点とします。以下の境界値は説明用に置いた自作ルールであり、一般的な優良企業の基準でも、投資成果を示す基準でもありません。

0点1点2点
売上高成長率0%未満0%以上5%未満5%以上
営業利益率の前年差0.5ポイント超の悪化−0.5〜+0.5ポイント0.5ポイント超の改善
会社予想進捗季節性調整後の想定を下回る想定範囲内想定を上回る
営業CFマイナスかつ前年差悪化その他プラスかつ前年差改善
基本的EPS成長率0%未満0%以上5%未満5%以上
資本効率資本コストとの差がマイナス比較不能または同程度差がプラス

この表には、そのまま使えない箇所があります。特に進捗率を四半期ごとに25%、50%、75%、100%と置く方法は、季節性の強い事業に適しません。前年同時点の進捗、会社が示す上期・下期計画、受注残などから「季節性調整後の想定」を別表で決めます。会社予想が未定、赤字予想、分母が小さい場合は無理に点を付けません。

東証が示す業績予想の実務上の取扱いでは、将来予測情報の開示方法は、決算短信の定型的な「次期の業績予想」に限られません。数値の一点予想だけでなく、レンジ、経営指標、記述による見通しが示される場合もあります。進捗を採点するときは、最初に見つけた予想値を固定せず、予想の形式、対象期間、最新の修正日を記録します。業績予想の修正や予想値と決算値の差異は適時開示の対象になり得るため、決算短信だけでなく同日までの適時開示も確認します。進捗率の季節性を詳しく整理するときは決算進捗率と季節性も参照してください。

資本効率も一律の数値境界ではなく、会社が示した資本コストとの関係を見る設計です。東証はプライム市場とスタンダード市場の上場会社に対し、資本コストや株価を意識した経営への対応を要請していますが、これを「ROEが一律に何%以上なら2点」という規則に読み替えることはできません。事業リスクや資本構成が異なるためです。会社が資本コストを開示していない場合は、推計値で埋めず欠損にします。

IFRS適用企業の営業利益にも注意が必要です。IFRS財団によると、IFRS 18は2027年1月1日以後に開始する年次報告期間から適用され、早期適用も認められます。IFRS 18は営業損益を含む新しい小計を導入しますが、適用前の開示や会社独自の業績指標と自動的に同じとは限りません。日本基準企業とIFRS企業を横断するときは、会計基準、適用時期、会社定義を記録し、名称だけで同一指標と判断しません。

架空のA社を例にします。売上高成長率8%で2点、営業利益率が0.3ポイント改善して1点、季節性調整後の進捗が想定内で1点、営業CFがプラスかつ前年差改善で2点、基本的EPS成長率3%で1点、資本効率は会社の資本コストが非開示のため欠損、とします。この段階で内訳は「2、1、1、2、1、欠損」です。欠損を0点にして合計7点とすると、悪化と未開示を同じ意味にしてしまいます。次の方法で分けて扱います。

欠損値は0点にせず、採点可能分だけ100点換算する

欠損値には少なくとも三種類あります。

  1. 会社が値を開示していない
  2. 赤字やゼロに近い分母により、伸び率の意味が薄い
  3. 会計期変更、組織再編、会計基準変更などで比較できない

どれも「業績が悪い」と同じではありません。欠損理由をコード化し、未開示はND、計算不能はNA、比較不能はNCのように別欄へ残します。これは本記事内の管理記号で、公的な定義ではありません。

採点可能な軸だけで換算する式は次のとおりです。

換算点 = 獲得点 ÷ 採点可能な最大点 × 100

A社は5軸が採点可能なので最大10点、獲得7点なら70点です。ただし「70点」と「6軸すべて採点済みの70点」は情報量が違います。表示は「70点、採点5/6軸」とします。採点可能な軸が3軸未満なら総合点を出さず、「データ不足」とする停止ルールも先に決めます。3軸という数は本記事の例であり、利用目的に応じて変更できます。

欠損を除外すると、開示の少ない企業が少数の良い指標だけで高得点になる可能性があります。そのため、総合点とは別に「開示充足率」を置きます。

開示充足率 = 採点できた軸数 ÷ 全軸数 × 100

A社なら5÷6で約83.3%です。端数処理は小数第1位などに固定します。総合点と開示充足率を併記し、点数が同じ企業でも根拠の厚さが違うことを見えるようにします。

採点から再確認までを一つの表にする

スコアを更新するたびに、次の順序で記録すると、元資料と自作評価を行き来しやすくなります。

段階記録するもの止める条件次に確認するもの
1. 資料固定資料名、公表日、対象期間、会計基準、連結・個別対象期や単位が不明決算短信、有価証券報告書、適時開示
2. 元データ入力金額、比率、1株当たり数値、単位前年と期間がそろわない注記、過年度の同期間
3. 計算使用式、丸め前後の値分母がゼロ付近、比較不能欠損理由をNAまたはNCで記録
4. 採点軸別の0〜2点、採用した配点版採点可能軸が3未満総合点を出さずデータ不足と表示
5. 表示換算点、採点軸数、開示充足率総合点だけで結論が出そう点数が割れた軸の原典へ戻る
6. 検証版ごとの点数分布、欠損率、業界偏り当時未公表の情報が混入時点を固定して再計算

営業CFとフリーCFの式を切り分ける場合は営業CFとフリーCFの違い、EPSの分母や希薄化を確認する場合はEPSと株式数の関係が関連します。

業界差と企業差は別シートで補正する

小売業の在庫、製造業の設備投資、銀行の資金調達は意味が異なります。全業種を同じ営業利益率や営業CFの境界で採点すると、事業モデルの違いを業績差と誤認しやすくなります。まず同一企業の前年同期と複数年推移を見て、その後に同じ業界、近い事業構成、同じ会計基準の企業群へ比較範囲を広げます。

業界別の調整方法には、境界値そのものを業界別にする方法と、各企業の業界内順位へ変換する方法があります。ただし、比較対象の選び方で結果が変わります。採用銘柄、除外条件、データ取得日を保存し、結果を見てから都合のよい同業他社へ入れ替えません。

企業独自の指標も同様です。調整後営業利益、事業利益、コア利益などが開示されていても、会社ごとに定義が異なる場合があります。決算説明資料の読み方は決算説明資料の読み方を参考にし、調整項目と計算式を確認します。比較できないときは法定・会計基準ベースの数値へ戻すか、その軸を欠損にします。

金融業では営業利益、営業CF、ROICの並びが一般事業会社と同じ意味にならない場合があります。IFRS 18でも、投融資を主な事業活動とする企業について収益・費用の分類に特則があります。銀行や保険会社を対象にする場合は、6軸をそのまま流用せず、業界固有の規制指標と開示項目を一次資料から再設計する必要があります。具体的な業界版の配点は本稿では※要確認とします。

過去検証と版管理で、後知恵による配点変更を防ぐ

スコアを作ったら、現在の企業へすぐ当てはめる前に過去データで検証します。ただし、過去の決算を現在知っている情報で採点すると、当時は未公表だった情報が混ざります。各期の採点には、その決算発表時点までに公表されていた資料だけを使います。

最低限、次の列を持つ検証台帳を作ります。

区分保存する内容
識別企業コード、企業名、決算期、発表日時
入力6軸の元データ、単位、対象期間、連結・個別
出典資料名、資料URL、公表日、取得日
計算使用式、丸め前の値、丸め後の値
評価軸別点数、欠損理由、換算点、開示充足率
scoreVersion、配点表の作成日、変更理由
検証後日確認する結果、確認期間、除外条件

最初の版を1.0.0とするなら、境界値や軸を変えたときは版番号を更新し、旧版を上書きしません。たとえば進捗率の季節性調整を追加した場合、旧版と新版を同じ過去データへ適用し、どの企業の点数がなぜ変わったかを差分で確認します。

検証結果には、点数分布、欠損率、業界ごとの偏り、特定の軸だけで総合点が決まっていないかを含めます。将来リターンとの関係を見る場合は、基準となる株価時点、配当、調整後株価、検証期間、売買コスト、上場廃止銘柄の扱いが必要です。これらを決めずに「高得点群の成績が良かった」と結論づけません。株価データの利用条件や算出方法も※要確認です。検証台帳の作り方は検証記録の付け方も参考になります。

点数の役割は、結論を出すことではなく次の原典へ戻る順序を作ることです。売上成長が2点でも営業CFが0点なら、売上債権や棚卸資産の増減を確認します。利益率が改善してもEPSが悪化したなら、特別損益、税金、株式数を確認します。総合点だけで売買判断を出さず、内訳の不一致を追加調査の入口にします。

FAQ

決算スコアは何点なら高評価ですか

一律の合格点はありません。本稿の境界値は説明用で、業界、企業の成長段階、会計基準によって同じ点数の意味が変わります。総合点より、過去の同一企業と比べてどの軸が変化したかを先に見ます。

欠損値は0点にしてもよいですか

未開示や比較不能は、悪化を意味する0点とは分けます。欠損理由を残し、採点可能な軸だけで換算点を計算したうえで、「採点5/6軸」のように情報量を併記します。

四半期の進捗率は25%ずつで判断できますか

季節性があるため、単純な四等分では判断できない企業があります。前年同時点の進捗、上期・下期計画、最新の業績予想修正を確認し、比較できない場合は採点を見送ります。

営業利益がない企業や金融機関にも同じ配点を使えますか

そのままは使いません。会社独自の利益指標は定義を確認し、銀行や保険会社は業界固有の開示・規制指標を基に別の配点表を設計します。本稿の6軸を流用できるかは※要確認です。

決算スコアだけで銘柄を選べますか

スコアは確認漏れを減らす整理表であり、将来の株価や投資成果を示しません。点数が割れた理由を決算短信、注記、適時開示へ戻って調べるために使います。

公開前の確認メモ

記事の内容を手元で確かめる

入力値はこのページ内だけで計算し、外部へ送信・保存しません。

決算スコア計算

同一企業の前年差を整理する汎用モードです。6軸を別々に見せ、総合点だけで良否や売買を判断しません。

収益成長
採算
現金
進捗
資本効率
バリュエーション
6軸のレーダー風表示 収益成長、採算、現金、進捗、資本効率、バリュエーションを0点から5点で示します。 収益成長採算現金進捗資本効率バリュエーション

配点版: generic-yoy-v1

入力済み軸の平均: 未計算

  • 収益成長: 不明(分母から除外)
  • 採算: 不明(分母から除外)
  • 現金: 不明(分母から除外)
  • 進捗: 不明(分母から除外)
  • 資本効率: 不明(分母から除外)
  • バリュエーション: 不明(分母から除外)
初版の区分と限界

変化率等は -10未満=0、-10〜0=1、0〜5=2、5〜10=3、10〜20=4、20以上=5の共通仮区分です。PERのみ方向を反転した参考区分です。業種差・会計基準差を吸収しないため、実務では公開済みの定義表と一次資料を併用してください。