レース検証

SNS回収率を再現検証する方法

SNSで示された競馬の高回収率を事実認定せず、条件定義、公式データ、購入可能性、期間分割、多重比較を再現票で検証する手順を解説します。

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SNSには「ある条件で回収率が100%を超えた」という投稿があります。数字が具体的であるほど、再現できる規則のように見えます。しかし、回収率は対象期間、券種、1点の金額、オッズを見た時刻、取消や欠測の扱い、試した条件数によって変わります。数字だけでは、同じ入力から第三者が同じ対象と払戻額を作れるか分かりません。

この記事は、高い回収率の自己申告を否定する記事でも、信じる記事でもありません。投稿者の意図や能力を推測せず、公開された主張を「検証可能な形へ翻訳できるか」という一点だけで扱います。特定の馬、レース、券種、買い目、勝利法は提供しません。

依頼時に示された投稿要約には、次の三つの数値がありました。

投稿要約にあった表現この記事での扱いそのままでは決まらない項目
坂路ラスト1ハロン11秒台で単複回収90%超検証前の自己申告A11.0秒以上12.0秒未満か、計測不良、単勝と複勝の配分、追い切り日
平場の単勝回収率113.4%検証前の自己申告B平場の定義、対象期間、全候補か実購入か、1頭当たり金額
血統・競馬場・馬場の条件で単勝回収率347%検証前の自己申告C血統分類、場、芝・ダート、馬場状態、組合せ探索数、サンプル数

これらは元投稿の数値を事実認定したものではありません。この記事内でA、B、Cと呼ぶ場合も、検証対象を識別するためのラベルにすぎません。投稿者を攻撃したり、不正確だと断定したりする根拠にも使いません。必要なのは、同じ規則、同じデータ版、同じ期間で再計算したときに同じ数字へ到達するかを調べることです。

回収率の分母から確認したい場合は回収率という物差し、標本数の考え方は回収率は何レースで判断できるか、結果後の情報混入はレース検証のデータ漏洩を先に参照してください。

結論:数字を再計算する前にルールを再現する

再現検証は、投稿の数字と似た数字を探す作業ではありません。先にルールを一意にし、そのルールが抽出した全件を、外れ、欠測、取消を含めて精算する作業です。順序は次のとおりです。

  1. 投稿時点で分かる範囲だけを原文ルールとして保存する。
  2. 曖昧な語を、結果を見ずに機械判定できる定義へ直す。
  3. 対象期間、除外、券種、点数、金額、オッズ時点を固定する。
  4. 探索に使う訓練期間と、一度だけ採点する検証期間を分ける。
  5. JRA公式結果と公式仕様に対応する列を保存する。
  6. 候補全件、購入可能件、欠測、取消、返還を件数照合する。
  7. 購入総額と公式払戻総額から回収率を計算する。
  8. 試した条件数、条件変更履歴、層別結果を同時に開示する。
  9. 再現できなければ、どの段階で止まったかを結論にする。

先に回収率を眺め、良かった条件へ定義を寄せると、再現ではなく新しい条件探索になります。投稿の113.4%に近づくまで「平場」の範囲を動かす、347%になる血統分類を探す、といった作業は元主張の再現にはなりません。

公式情報で固定できること

払戻率と個人の回収率は別物

JRA公式FAQは、通常の設定払戻率を単勝・複勝80.00%、枠連・馬連・ワイド77.50%、馬単・3連複75.00%、3連単72.50%、WIN5 70.00%と示しています。これは払戻対象総額の計算に使う制度上の率です。個別ルールの観測回収率が80%になるという意味でも、80%へ収束することをこの記事が保証するものでもありません。

個人または仮想購入の回収率は、次の式で計算します。

回収率(%)=公式払戻額の合計 ÷ 実際に精算対象となった購入額の合計 × 100

単勝オッズを払戻額へ機械的に掛けるだけでは不十分です。JRA公式の「馬券のルール」は、払戻は裁決委員が確定した着順に基づくこと、同着では発表された最終オッズと異なる率の払戻金になり得ること、取消・除外では返還が生じることを説明しています。公式結果の払戻欄は100円券単位の金額を表示します。したがって精算列の正本は、推定オッズではなく公式払戻金です。

制度と個人結果の違いはJRA払戻率から競馬の損失を理解する、券種差はJRA券種別の払戻率を比較するでも整理しています。

レース結果で分かること

JRA公式「レース結果の見方」では、レース条件、着順、失格、中止、除外、取消、区間タイム、払戻金、返還対象などの表示項目を説明しています。ここから結果、競走状態、払戻を確定できます。ただし、結果ページから後日取得した最終オッズは、投票判断時点で見えていたオッズと同じではありません。

検証目的を二つに分けます。

目的使う価格言えること言えないこと
事後の市場集計終了後の最終オッズ最終価格で分類した過去傾向その最終価格で実際に購入できたこと
購入可能性の再現締切前に保存した表示オッズと取得時刻その時点の条件一致と操作余地最終払戻倍率の確定
収支の精算JRA公式の確定払戻金100円単位の確定払戻判断時点の期待値

最終オッズ変動を記録する方法で扱うように、観測値と最終値は別列にします。最終オッズしかないデータで「締切前に条件を満たし購入できた」とは結論しません。

坂路ラスト1ハロンの仕様

JRAの競馬用語辞典は、坂路コースを傾斜のついた調教コースと説明しています。JRA-VANのJV-Data仕様書では、坂路調教をHCレコードとして定義し、美浦または栗東のトレセン区分、調教年月日、調教時刻、血統登録番号、4ハロン合計と各200メートルのラップを収録します。ラスト1ハロンは「200Mから0M」のラップで、単位は0.1秒、測定不良時は000です。

よって「11秒台」は、再現規則として少なくとも次のように固定できます。

last_1f >= 11.0 AND last_1f < 12.0 AND measurement_status = valid

ただし、これだけでは馬券対象は決まりません。どの調教日を採用するか、1頭に複数本ある場合に最速、最終、指定時刻のどれを使うか、出走日から何日前までを見るか、調教後に取消となった馬をどう残すかが必要です。JRA-VANは、配信対象が美浦・栗東の坂路とウッドチップであり、配信遅延や馬名未登録馬の非提供があり得ると案内しています。提供範囲外や遅延を「該当なし」に変換してはいけません。

次の表で、調教条件を固定します。

項目固定例禁止する後付け
データ種別HC坂路調教ウッドチップを都合よく追加する
区間200Mから0M4ハロン合計と混同する
11秒台11.0秒以上12.0秒未満12.0秒を含める
測定不良欠測として別集計0秒または非該当へ置換
採用日出走前の指定期間内好タイムの日だけ選ぶ
複数本事前に定めた1本または全本規則結果後に最速本へ変更
対応キー血統登録番号と日付馬名の表記揺れだけで結合
配信範囲美浦・栗東の提供対象未提供コースを不該当扱い

主張を機械判定できる形へ直す

自己申告A:単複回収90%超

「単複」は、単勝と複勝をそれぞれ100円買うのか、どちらかを選ぶのか、合算回収率だけを出すのかで分母が変わります。再現票には券種別の購入額と払戻額を置きます。

方式1頭当たり購入額主表示必要な補助表示
単勝100円と複勝100円200円合算回収率単勝、複勝を別々に表示
単勝だけ100円単勝回収率対象頭数、的中数
複勝だけ100円複勝回収率出走頭数、払戻金
条件で単勝か複勝を選択規則次第選択後回収率選択規則と券種別件数

元投稿がどの方式か特定できなければ、「単複回収90%超」は一意に再計算できません。可能な方式を全部試し、近いものを採用するのは、正解を数字から逆算する作業です。再現不能の理由を「券種配分未定義」と記録するのが適切です。

自己申告B:平場の単勝回収率113.4%

日常語の「平場」は機械項目ではありません。重賞を除けば平場なのか、特別競走も除くのか、障害競走や新馬戦を含むのかを固定します。JRA公式結果にはレース名、グレード、リステッド、レース条件等があるため、公開項目で判定できるルールにします。

定義例は次の一つに固定します。

is_flat = grade is null AND listed_flag = false AND special_race_flag = false

これはこの記事の推奨買い条件ではなく、曖昧語をデータ項目へ落とす書式例です。元投稿者の定義と一致する証拠がない限り、「再現用の代替定義」と明記します。

自己申告C:血統・場・馬場で単勝回収347%

三要素の組合せは候補が急増します。父、母父、系統、個別種牡馬、競馬場、芝・ダート、良・稍重・重・不良を自由に組み合わせると、多数の小さなセルができます。JRA-VAN仕様には繁殖馬マスタ、産駒マスタ、系統情報が別レコードとしてあります。どの階層を「血統」と呼ぶかを先に固定しなければ、同じ条件になりません。

馬場状態はJRA公式区分を保持し、芝とダートを分けます。詳しい列設計は競馬の馬場状態をデータ検証する方法を参照してください。

採用できる固定単位の例結果後にしてはいけない変更
血統父の血統登録番号好成績馬だけ母父へ切り替える
競馬場JRA競馬場コード似た場を後から合算する
路面芝、ダートを別集計成績の良い側だけ残す
馬場良、稍重、重、不良稍重と重の境界を動かす
距離事前に固定した区分的中距離だけ狭く切る
期間開始日と終了日を固定高配当の直前から始める

347%という点推定値だけでは、期待値が正だとは言えません。購入額が1,000円で3,470円戻った場合と、100万円で347万円戻った場合は同じ347%ですが、標本数も払戻分布も異なります。最大払戻1件が全払戻の何%を占めたかも必要です。

再現票

以下を1枚の再現票として、結果を見る前に埋めます。空欄が残る項目は、推測で補わず「未定義」とします。未定義のまま主回収率を出した場合、その数字は元投稿の再現値ではなく、検証者の代替ルールによる参考値です。

区分項目固定する内容監査証拠
識別検証ID・版例:SNS-A-v1.0作成日時と変更履歴
主張原文保存数字、条件語、投稿日時引用範囲とURLまたは保存記録
有利条件定義11.0以上12.0未満など判定式
対象期間開始・終了訓練、検証を別記日付境界
対象競走開催・競走種別中央、場、平地等JRAレースID
券種単勝・複勝混合しない券種コード
単位1行の粒度1頭1券種1レース一意キー
除外条件事前除外障害、海外等除外理由コード
締切オッズ観測点公式締切より前の固定時点observed_atと出典
購入可能性成立条件発売中、受付可能、候補確定済み購入可否理由
点数1レース点数上限と全件規則点数合計
金額1点金額一律100円など購入総額の再計算
払戻正本JRA公式確定払戻結果URLと確認日時
返還処理購入額、返還額を別列返還対象番号
欠測処理未取得、測定不良、結合失敗を分離欠測理由コード
取消・除外処理行を残し購入状態を更新公式状態
同着処理公式払戻をそのまま採用同着フラグ
サンプル数分母候補、購入、精算の三つ件数照合
試行数条件探索試した全条件数探索ログ
期間分割訓練・検証時間順、検証は一度だけ凍結日時
合格基準事前基準再現許容差、必要列充足率判定式
結論結果分類再現、部分再現、不能、反証差分表

この再現票はレース検証の記録のつけ方に追加する監査票です。元データ、ルール票、集計結果を別ファイルとして保存し、集計のたびに元データを上書きしません。

元データの列

再現票を実データへ落とすときは、少なくとも次の列が必要です。

列名内容欠測時の処理
race_id年月日、場、回、日目、レース番号結合せず隔離
horse_id血統登録番号馬名推定で補完しない
training_date調教年月日調教条件は評価不能
training_time調教時刻同日複数本ルールに従う
last_1f200Mから0Mの0.1秒単位値測定不良を0にしない
rule_matched_at条件一致を確定した日時購入可能性を判定不能
scheduled_start当時の発走予定時刻公式変更履歴を別列化
odds_observed判断前の表示オッズ最終オッズで補完しない
odds_observed_at実際の取得日時時刻なしを「締切前」としない
odds_final終了後の最終オッズ事後分類だけに使う
bet_type単勝または複勝券種不明は精算しない
pointsそのレースの購入点数推測しない
stakeその券の購入額空欄と0円を区別
purchase_status購入、見送り、不能、返還行削除しない
final_status正常、取消、除外、中止、失格公式表記を保持
payout_per_100公式100円当たり払戻オッズ推計で代用しない
payout_actual購入額に応じた払戻計算式と丸めを固定
source_versionデータ仕様と取得版版不明を混在させない

JRA-VANのJV-Data仕様では、レース詳細RA、馬毎レース情報SE、払戻HR、単複枠オッズO1、競走馬除外情報JG、坂路調教HC、天候馬場WEなどが別レコードです。結合後の行数だけでなく、各段階の件数を残します。

結合段階入力件数一致件数不一致件数主な不一致理由
レースと出走馬記録値記録値記録値取消、ID不正
出走馬と坂路記録値記録値記録値未提供、測定不良、期間外
候補とオッズ記録値記録値記録値取得失敗、時刻不明
購入記録と結果記録値記録値記録値受付不能、レース変更
結果と払戻記録値記録値記録値返還、同着、未確定時取得

不一致行を消すと、条件が悪いときだけデータが欠ける可能性を見逃します。欠測率を全体と条件別に出し、欠測した対象を外れにも的中にも変換しません。

締切オッズと購入可能性を分ける

バックテストが公式結果と一致しても、実際にその条件で買えたとは限りません。調教データの配信が発走後だった、候補確定が締切後だった、表示オッズの保存時刻がない、といった場合があります。購入可能性は損益とは別の合格条件です。

状態条件回収率の主集計報告
購入可能条件一致とオッズ観測が公式締切前含める観測時刻を表示
購入不能条件一致が締切後含めない件数と理由を表示
時刻不明データはあるが取得時刻なし主集計から分離事後集計と表示
発売なし券種が発売されていない含めない発売状態を表示
取消・除外受付後に公式返還対象購入額と返還を別記外れにしない
通信・受付不明成立証拠がない実購入集計に入れない不明として残す

締切直前の表示オッズは動き得ます。最終オッズを使った条件抽出は「最終市場価格による事後研究」としては成立しますが、「その倍率で購入できた戦略」の証明ではありません。オッズから確率を考える基礎は競馬オッズを確率へ直す方法も参照してください。

期待値と観測回収率を混同しない

期待値は、起こり得る結果とその確率を使う長期平均の理論量です。観測回収率は、特定期間に実際に起きた払戻の集計です。347%という観測値だけから、将来の期待回収率が347%だとは推定できません。

単勝の簡略な表現なら、100円券の期待払戻は「真の的中確率 × 的中時払戻」で考えます。しかし真の確率は観測できず、推定には誤差があります。市場オッズから単純変換した確率も、控除と投票分布を含む価格であり、真の勝率そのものではありません。

指標分子分母・基準用途
観測回収率過去の公式払戻合計過去の購入額合計対象期間の事実要約
的中率的中件数精算対象件数当たり頻度の要約
平均払戻払戻合計的中件数または全件払戻集中の確認
最大払戻依存度最大1件の払戻全払戻一発依存の確認
期待値確率を重みとした払戻推定モデル未知の長期平均の仮説

回収率が100%を超えたことは、その期間の購入総額より払戻総額が多かったことを示します。それ以上の解釈には、期間外検証、標本数、探索数、データ利用可能時点が必要です。

訓練期間と検証期間を分ける

条件を考える期間を訓練期間、固定した条件を一度だけ採点する未来側の期間を検証期間とします。検証期間の結果を見て条件を変えた時点で、その期間は訓練済みになります。変更後ルールには、さらに後の未見期間が必要です。

期間役割許される作業禁止する作業
訓練期間仮説作成閾値、血統分類、対象場を比較最終成果として一般化
検証期間固定ルールの採点事前票どおり一度集計結果を見て閾値変更
追試期間独立再現別担当・別時点で再計算元集計値に合わせる
運用記録期間実行可能性確認観測時刻、見送り、不能を保存購入額を追い上げる

時間順に分ける理由は、未来の開催傾向、データ修正、最終結果を過去のルール作成へ混ぜないためです。モデル選択や前処理を全期間で行ってから分割しても、検証期間の情報はすでに入っています。データ漏洩の記事にあるように、分割は条件選択と欠測補完より前に行います。

架空検証1:訓練では130%、検証では75%

以下は計算手順を示す完全な架空例です。実在の馬、レース、投稿の結果ではありません。

事前ルールを「指定期間の坂路HCデータでラスト1ハロンが11.0秒以上12.0秒未満、測定有効、各対象馬の単勝を一律100円の仮想購入」とします。訓練期間と検証期間を時間順に分けました。

期間候補頭数購入可能件数購入額公式払戻額回収率最大払戻依存度
訓練期間12612012,000円15,600円130.0%57.7%
検証期間84808,000円6,000円75.0%35.0%

訓練期間では120件のうち最大1件が9,000円で、全払戻15,600円の57.7%を占めた設定です。最大1件を除いた回収率を正式成績へ置き換えてはいけませんが、集中度を見る感度分析では55.0%になります。検証期間では同じルールを変えずに適用し、75.0%でした。

この例の結論は「11秒台は不利」ではありません。「訓練期間の130.0%は、同じ固定ルールの次期間で再現しなかった」です。検証期間を見て11.0から11.5秒へ狭め、成績が上がっても、それは新仮説です。検証期間を再利用して合格とはしません。

架空検証2:48条件の最高値と後付けの平場分割

次も完全な架空例です。父系4分類、競馬場3場、馬場4区分を掛け合わせ、48条件を同じ訓練期間で試したとします。各条件の件数は均等ではありません。その中で最高だったセルだけを取り出すと、訓練回収率が347.0%になりました。

集計試した条件数掲載セルの件数購入額払戻額回収率
訓練期間の全条件48全セル240,000円188,400円78.5%
訓練期間の最高セル48から選択10件1,000円3,470円347.0%
未見検証期間の同じセル選択なし12件1,200円720円60.0%

最高セルの347.0%は計算上正しくても、「48個を試した後の最大値」です。最初から一つだけ決めた条件の347.0%とは証拠の強さが異なります。未見期間では60.0%となり、元の点推定値は再現しませんでした。この例でも「その血統が不利」と一般化せず、「選択済みセルの高回収は未見期間で維持されなかった」と結論します。

さらに、訓練期間の同じ100件を結果後に平場と重賞へ分けた架空例を見ます。

後付け区分件数購入額払戻額回収率
分割前の全体10010,000円9,200円92.0%
平場だけ606,000円6,900円115.0%
重賞だけ404,000円2,300円57.5%

平場だけの115.0%を見て「平場で効く」と言いたくなります。しかし、全体92.0%を見た後で分割したなら、平場は訓練中に発見した新仮説です。重賞を除くルールを次の未見期間へ固定し、平場・重賞の両方を報告するまで、平場優位を検証済みとは呼べません。

多数の条件から最高値だけを出す罠

一つの条件が偶然高くなる確率が低くても、多数の条件を試せば、どれか一つが高く見える機会は増えます。統計学では多重比較、選択後推論、偽発見率などの問題として研究されています。Chenらの査読論文は、複数の検定へ単一検定用の基準をそのまま使うと、少なくとも一つの偽陽性が出る確率が大きくなると説明しています。GoemanとSolariのBiometrika論文も、データで選ばれた問いの証拠は選択過程によって誇張され得ると整理しています。

競馬の条件探索では、正式な仮説検定をしていなくても同じ構造があります。次の操作はすべて試行数に数えます。

  • ラスト1ハロンの境界を0.1秒刻みで動かす
  • 追い切り日を1週前、最終、最速へ切り替える
  • 単勝、複勝、単複合算を比べる
  • 平場、特別、重賞を組み替える
  • 父、母父、系統を切り替える
  • 競馬場、距離、芝・ダート、馬場状態を掛け合わせる
  • 対象期間の開始日と終了日を動かす
  • 外れの多い月や取消行を除外する

探索ログには、採用しなかった条件も残します。

試行ID変更前変更後変更理由見たデータ採否
001初期案11.0以上12.0未満投稿語の定義結果未見採用
002全競走平場のみ訓練結果から着想訓練期間次期仮説
003父分類母父分類訓練結果から着想訓練期間不採用でも保存
004全馬場重のみ訓練結果から着想訓練期間次期仮説

採用した一行しか残っていなければ、探索数は「1」ではなく「不明」です。不明な試行数を都合よく1と仮定しません。

サンプル数と不確実性

「回収率が何%なら合格か」より先に、候補数、購入可能数、的中数、最大払戻、期間の長さを見ます。一律に何件なら十分とは決められません。複勝のように比較的的中が多い券種と、高払戻が少数に偏る券種では分布が違います。

最低限、次を同時に出します。

指標表示する理由
候補件数条件抽出の母数を確認する
購入可能件数時刻と発売を満たした分母を確認する
的中件数回収率の源泉を確認する
購入総額回収率の分母を固定する
払戻総額公式精算額を確認する
最大払戻依存度一件の高配当への集中を確認する
月別・年別回収率一期間だけの偏りを確認する
欠測率データ欠落による選択を確認する
取消・返還件数外れとの混同を防ぐ
訓練・検証別成績過適合を確認する

的中率には二項比率の区間を付けられますが、回収率は払戻額が大きく右へ偏り、同じ区間を単純に使えません。回収率の不確実性を評価する場合は、レース単位の依存、時系列、払戻の裾の重さを考慮する必要があります。この記事では特定の統計手法を万能な合格判定として推奨しません。

再現できないときの結論

再現できないこと自体が、投稿が誤りだという証明ではありません。公開情報が足りない、データ版が違う、購入時点が復元できない可能性があります。結論を次の四つに分けます。

結論条件書き方
再現定義、期間、全件、払戻が一致同じ版で許容差内に一致した
部分再現一部指標だけ一致単勝は一致、複勝配分は未定義
再現不能必須定義や原票がない数字の真偽ではなく再計算不能
反証固定ルールと同じデータで明確に不一致対象件数と差分を示す

適切な報告例は次のとおりです。

公開情報から「11秒台」を定義できたが、単勝と複勝の購入配分、対象期間、購入時点オッズが示されていないため、90%超という合算回収率は再現不能だった。この結論は投稿数値の虚偽を意味しない。必要な追加情報は券種別原票、期間、1点金額、除外規則である。

不適切なのは、似た数字が出るまで条件を動かして「再現した」とすること、再現できないことから投稿者の人格や意図を推測することです。

検算チェックリスト

  1. 原文の数字を検証結果として先に入力していないか。
  2. 条件定義を結果より前に凍結したか。
  3. 11秒台の上下端と測定不良を固定したか。
  4. 単勝と複勝の分母を別々に出したか。
  5. 平場、特別、重賞の区分を事前に固定したか。
  6. 血統の階層と識別子を固定したか。
  7. 芝とダート、馬場4区分を混同していないか。
  8. 訓練期間と未来側の検証期間を分けたか。
  9. 前処理や欠測補完を分割後に行ったか。
  10. 締切前オッズと最終オッズを別列にしたか。
  11. 条件一致時刻が公式締切前か確認したか。
  12. 候補、購入可能、購入、精算の件数がつながるか。
  13. 点数と1点金額から購入総額を再計算できるか。
  14. 払戻額はJRA公式確定値と一致するか。
  15. 取消、除外、返還、同着を別状態で残したか。
  16. 欠測行を都合よく削除していないか。
  17. 試した全条件数と変更履歴を残したか。
  18. 最高値だけでなく全体と不採用条件を残したか。
  19. 最大払戻1件への依存度を出したか。
  20. 再現不能と虚偽認定を混同していないか。

よくある質問

1. 投稿に回収率と条件が書いてあれば再現できますか

通常は足りません。対象期間、券種、点数、金額、除外、欠測、取消、締切前の利用可能性、サンプル数が必要です。同じ言葉でも集計分母が変わります。

2. 回収率113.4%は期待値がプラスという意味ですか

意味しません。113.4%は対象期間の観測結果かもしれません。将来の期待値を主張するには、確率推定の誤差、期間外検証、探索数などを別に評価する必要があります。

3. 347%なら偶然ではないと考えてよいですか

数値の大きさだけでは判断できません。10件中の一度の高払戻でも作れます。件数、最大払戻依存度、試した条件数、未見期間の結果を確認します。

4. 「11秒台」は11.0秒から11.9秒ですか

再現式では11.0秒以上12.0秒未満と固定できます。JRA-VAN仕様のラスト1ハロンは200Mから0M、0.1秒単位です。ただし元投稿が同じ定義だったかは別に確認が必要です。

5. 測定不良の000は0秒として最速にできますか

できません。仕様上の測定不良です。欠測として別件数へ置き、条件一致にも不一致にも変換しません。

6. 一頭に同日の坂路時計が複数あれば最速を使えますか

事前に最速を使うと固定していれば、そのルールで集計できます。結果後に最速へ切り替えると後付けです。最終本、指定時刻、全本のどれかを先に決めます。

7. 単勝と複勝を合算してもよいですか

合算規則を固定し、券種別成績も併記するなら計算できます。単勝100円と複勝100円なら1頭200円です。券種配分が不明な合算値は一意に再現できません。

8. 平場は重賞以外と定義すれば十分ですか

元投稿の定義と一致するとは限りません。特別競走、リステッド、障害、新馬などの扱いを公式項目へ対応させます。代替定義なら、その旨を明記します。

9. 平場と重賞を両方集計して、良い方を採用してよいですか

探索としては可能です。ただし良い方は新仮説です。同じ期間で採用と評価を完結させず、次の未見期間で固定して採点します。

10. 最終オッズでバックテストしてはいけませんか

最終市場価格による事後分析には使えます。締切前に実行可能だったかを調べる目的には使えません。目的と列名を分け、公式払戻による精算とも分けます。

11. 投稿時のオッズ画像があれば購入可能性を証明できますか

画像の取得時刻、対象レース、更新状態、公式締切との前後関係が必要です。画像だけで全対象の購入成立や同じ倍率を証明することはできません。

12. 取消馬を外れとして数えますか

数えません。公式の返還状態に従い、購入額、返還額、精算対象額を分けます。取消行自体は原票に残します。

13. 欠測を除外すればきれいな比較になりますか

欠測理由が結果や条件と関係する場合、除外で偏りが生じます。欠測件数と率を条件別に示し、提供範囲外、測定不良、結合失敗を分けます。

14. サンプル数はいくつあれば十分ですか

一律の件数はありません。的中頻度、払戻分布、券種、条件数、期間変化で必要量が変わります。件数だけでなく、不確実性と最大払戻依存度を併記します。

15. たくさんの条件を試しても、最後に期間外検証すればよいですか

期間外検証は重要ですが、何度も検証期間を見て条件を直すと、その期間も探索へ変わります。最終ルールを凍結し、未見期間を一度だけ使います。

16. 多重比較補正をすれば必ず再現しますか

しません。多重比較への統計的対応は偽陽性の評価を助けますが、データ漏洩、締切後情報、欠測偏り、購入不能、定義変更は別問題です。

17. 回収率の95%信頼区間を出せば十分ですか

十分ではありません。払戻は高額側へ偏り、レースや開催で依存する可能性があります。使った手法、再標本化単位、時系列の扱い、探索数を明記する必要があります。

18. 元投稿と少し違う数字なら反証ですか

すぐには反証になりません。データ更新、丸め、期間境界、返還、券種配分を照合します。必須定義が欠けるなら再現不能、同じ定義と原票で不一致なら差分付き反証です。

19. 再現できなかったと投稿者へ断定的に伝えてよいですか

投稿者個人への攻撃は避けます。「公開情報だけでは券種配分が未定義で再計算できなかった」のように、情報と手続きの不足だけを述べます。

20. この再現票を使えば勝てますか

勝利や利益を保証しません。再現票は過去集計の誤りや説明不足を見つける道具です。有利な買い目を作る道具ではなく、損失を取り返す方法でもありません。

21. 実際に投票して前向き検証する必要がありますか

金銭を使う必要はありません。条件一致時刻、観測オッズ、購入可能性を保存する紙上記録で検証できます。過去結果の整理と無購入の前向き記録を分ければ、金銭損失なしで実行可能性を確認できます。

責任ある娯楽のために

この記事は検証の手順と記録を残すものであり、投票やデータ購入を促すものではありません。過去の高回収率は将来の利益を保証しません。検証のために実際の購入額を増やす必要はなく、紙上記録で十分です。

競馬を娯楽として利用する場合も、生活費、教育費、返済資金、緊急資金を使わず、負けを取り返すために金額や点数を増やさないでください。やめたいのに続ける、使った金額や時間を隠す、借金や家庭生活へ影響が出る場合は、集計より先に投票を止めてください。JRAは、のめり込みへの相談先と本人・家族による利用停止制度を公式に案内しています。厚生労働省も保健所、精神保健福祉センター、依存症相談拠点を案内しています。

関連する損失の見方は連敗とドローダウンを検証する方法、複勝払戻の扱いは複勝オッズ幅と払戻金の読み方、市場価格の区分は本命・大穴バイアスの検証も参照してください。

Sources

以下の制度、データ定義、統計上の注意は2026年7月24日に公式または学術一次資料で確認しました。SNSや需要証拠は、関心が存在することの例示にだけ使い、制度や統計の根拠には使っていません。

JRA・JRA-VANの公式資料

  1. JRA「具体的な払戻計算式を知りたいのですが?」。払戻対象総額の式と券種別設定払戻率。
    https://www.jra.go.jp/faq/pop03/1_17.html
  2. JRA「馬券のルール」。確定着順、同着、返還、払戻の扱い。
    https://www.jra.go.jp/kouza/baken/index.html
  3. JRA「レース結果の見方」。競走状態、区間タイム、100円当たり払戻金、返還対象の表示定義。
    https://www.jra.go.jp/JRADB/mikata/result.html
  4. JRA「レースの確定」。確定後に払戻金が発表される手順。
    https://www.jra.go.jp/keiba/rules/kakutei.html
  5. JRA競馬用語辞典「オッズ」。100円に対する概算払戻率と同着時の注意。
    https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w406.html
  6. JRA競馬用語辞典「坂路コース」。坂路の公式説明。
    https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w493.html
  7. JRA FAQ「過去のレース成績は、どこに掲載されていますか?」。公式結果の確認経路。
    https://www.jra.go.jp/faq/pop02/1_6.html
  8. JRA-VAN「JVData仕様書 Ver.4.9.0.1」。HC坂路調教、HR払戻、O1オッズ、WE天候馬場等のレコード定義。
    https://jra-van.jp/dlb/sdv/sdk/JV-Data4901.pdf
  9. JRA-VAN NEXT「調教タイム」。坂路・ウッドチップ調教タイムをJRA公式データとして提供する説明。
    https://jra-van.jp/nx/data_tyokyo.html
  10. JRA-VAN「調教タイムや追い切り映像はどこで見る?」。提供コース、遅延、未登録馬などの範囲。
    https://jra-van.jp/fun/chokyo/
  11. JRA「勝馬投票券の購入にのめり込んでしまう等の不安のある方へ」。相談先と注意情報。
    https://www.jra.go.jp/news/other/izon.html
  12. JRA「電話・インターネット投票の利用停止について」。本人申請による利用停止制度。
    https://www.jra.go.jp/company/social/society/disorder/izon4.html
  13. JRA「ご家族による申請」。家族申請による利用停止制度。
    https://www.jra.go.jp/company/social/society/disorder/izon5.html
  14. 厚生労働省「依存症対策」。公的相談先の案内。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html

大学・査読論文の一次資料

  1. Goeman, J. J. and Solari, A., “On selection and conditioning in multiple testing and selective inference,” Biometrika, 2024. データ選択後の推論と多重性。
    https://doi.org/10.1093/biomet/asad078
  2. Chen, J. J., Roberson, P. K. and Schell, M. J., “The false discovery rate: a key concept in large-scale genetic studies,” Cancer Control, 2010. 複数検定で単一検定用基準を使う問題。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20010520/
  3. Cawley, G. C. and Talbot, N. L. C., “On Over-fitting in Model Selection and Subsequent Selection Bias in Performance Evaluation,” Journal of Machine Learning Research, 2010. モデル選択と性能評価を同じデータで行う偏り。
    https://www.jmlr.org/papers/v11/cawley10a.html
  4. Arlot, S. and Celisse, A., “A survey of cross-validation procedures for model selection,” Statistics Surveys, 2010. 交差検証とモデル選択の査読サーベイ。
    https://doi.org/10.1214/09-SS054
  5. White, H., “A Reality Check for Data Snooping,” Econometrica, 2000. 多数の予測規則を探索した後の性能評価。
    https://doi.org/10.1111/1468-0262.00152
  6. Bailey, D. H. et al., “The Probability of Backtest Overfitting,” Journal of Computational Finance, 2017. バックテスト過適合の評価。
    https://doi.org/10.21314/JCF.2016.322
  7. Penn State STAT 509 “Model Validation.” 推定用データと検証用データを分ける大学教材。
    https://online.stat.psu.edu/stat509/lesson/12/12.10
  8. NIST/SEMATECH e-Handbook “Confidence Limits for a Proportion.” 二項比率の区間推定。
    https://www.itl.nist.gov/div898/handbook/prc/section2/prc241.htm

需要証拠

次の4件は、回収率、バックテスト、標本外検証への関心が実際にあることを示す需要証拠です。掲載数値や主張の正しさを本稿が認定するものではありません。

  1. note「機械学習で競馬の『買い方』を最適化したら回収率104%になった話」。回収率とバックテスト条件を扱う例。
    https://note.com/sumoilike/n/n4e0da433d5a3
  2. note「バックテスト1回目 回収率179%は、本物の期待値なのか?」。期間外で異なる結果を確認する例。
    https://note.com/kup_2045/n/nbb6180d8cc49
  3. Reddit “Built and backtested a UK horse-racing model.” ウォークフォワードと前向き記録を議論する例。
    https://www.reddit.com/r/HorseRacingUK/comments/1pq43qf/built_and_backtested_a_uk_horseracing_model/
  4. Reddit “Built an ML selection system for GB/IRE racing.” ROIと標本数を議論する例。
    https://www.reddit.com/r/horseracing/comments/1rx1zkl/built_an_ml_selection_system_for_gbire_racing_100/

本稿の架空検証1、架空検証2、平場と重賞の分割表は、再現票の読み方を説明するために作成した架空データです。実在レース、実購入、元投稿の再集計結果ではありません。