証券口座・始め方

損益通算と繰越控除の仕組み

上場株式の損失を利益や配当と相殺する損益通算と、残った損失を翌年以後へ繰り越す制度について、対象・手続き・注意点を初心者向けに整理します。

明暗の境界に置かれた二皿の天秤
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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。本文は税制の一般的な見解であり、税務・投資助言ではありません。

先に結論です。課税口座で上場株式などの売却損が出たときは、一定の条件を満たせば、同じ年の上場株式等の利益や、申告分離課税を選んだ配当等と差し引けます。これが損益通算です。それでも残る損失は、確定申告を続けることで翌年以後3年間にわたり差し引けます。これが繰越控除です(2026年7月時点)。

たとえるなら、損益通算は「同じ年の赤字と黒字を同じ箱に入れて差し引く作業」、繰越控除は「箱に残った赤字を、条件を守って翌年の箱へ運ぶ作業」です。ただし、どんな損失でも入れられるわけではなく、箱を翌年へ運ぶには確定申告が必要です。

制度を知っているだけで税額が自動的に変わるわけではありません。対象となる取引、配当の課税方式、申告書の提出を一つずつ確認する必要があります。

損益通算は「同じ年の利益と損失を相殺する」

たとえば、課税口座Aで上場株式の売却益が30万円、課税口座Bで上場株式の売却損が20万円だったとします。条件を満たして損益通算すると、差し引き後の上場株式等の譲渡所得は10万円です。これは仕組みを理解するための架空例で、手数料や個別事情は省いています。

同じ証券会社の源泉徴収あり特定口座内では、口座内の利益と損失が計算に反映されます。しかし、別の証券会社の口座をまたいで差し引く場合や、一定の配当等と差し引く場合は、確定申告が必要になります。年間取引報告書の「差引金額」だけを一社分見て終わらず、利用したすべての証券会社を並べることが大切です。

国税庁の「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」は、金融商品取引業者等を通じた上場株式等の譲渡損失について、確定申告により、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得・配当所得と通算できると案内しています。上場株式等の配当所得は、申告分離課税を選んだものが対象です。

上場株式等の配当等で申告分離課税を選ぶ場合の税率は20.315%で、内訳は所得税・復興特別所得税15.315%、地方税5%です(2026年7月時点)。根拠は国税庁の「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」で確認できます。ただし、税率だけを見て申告方法を決めると、配当控除や所得判定など別の影響を見落とします。

相殺できるものと、できないものを分ける

初心者が迷いやすいのは、「赤字なら何とでも差し引ける」と考えてしまう点です。実際には、所得の区分が重要です。

上場株式等の譲渡損失は、一定の上場株式等の譲渡益や、申告分離課税を選んだ一定の配当等との通算が制度の中心です。給与所得や事業所得から自由に差し引く仕組みではありません。また、国税庁は、繰り越した上場株式等の譲渡損失を一般株式等の譲渡所得から控除できないと案内しています(2026年7月時点)。

取引所を通さない相対取引など、上場株式の取引に見えても対象外になる場合があります。商品名だけで決めず、年間取引報告書、取引方法、口座区分を確認してください。

配当と通算したい場合は、配当の課税方式にも注意します。申告不要、総合課税、申告分離課税は同じ結果ではありません。申告分離課税を選ぶと配当控除は使えません。いったん確定申告で選んだ課税方式は、その後の修正申告などで変更できない場合があります。配当を含める前に、国税庁の案内か税務署・税理士へ確認するのが安全です。

繰越控除は「残った損失を翌年以後へ運ぶ」

同じ年の利益や対象となる配当等と差し引いても損失が残った場合、その年の翌年以後3年間にわたり、上場株式等の譲渡所得等や一定の配当所得等から繰越控除できます(2026年7月時点)。

たとえば、ある年に40万円の対象損失が残り、翌年に対象となる利益が15万円出た架空例なら、条件を満たして15万円を差し引き、残る25万円をさらに先の年へ運ぶ考え方です。実際の申告では、前年までの控除状況と当年の所得を申告書の付表で管理します。

大事なのは、損失が生じた年だけ申告すれば終わりではないことです。国税庁は、損失を翌年へ繰り越すには、その後の年も連続して所定の付表を添えた確定申告書を提出する必要があると説明しています。上場株式等の譲渡がなかった年も、損失を次の年へ運ぶための申告が必要です。

「今年は取引していないから申告しなくてよい」と飛ばすと、繰越控除を続けられないおそれがあります。利益が出た年だけ思い出す制度ではなく、損失が残っている期間を通して申告状況を管理する制度です。

NISAの損失は通算も繰越もできない

NISA口座内の対象利益が非課税である一方、NISA口座内で生じた売却損は、税務上は課税口座の利益との損益通算や繰越控除に使えません。国税庁も、非課税口座内の上場株式等の譲渡損失は、この特例の対象外と明記しています(2026年7月時点)。

これは「課税されない利益」と「税計算に持ち込めない損失」が対になっているためです。証券会社の画面で損失額が表示されても、その数字を課税口座の年間取引報告書へ足してはいけません。

課税口座とNISA口座で同じ銘柄を持っている場合は、どの口座で売却した分かを取引履歴で分けます。損失額だけをメモするのではなく、口座区分まで残してください。

申告前にそろえる資料と確認順

最初に、利用した証券会社を一覧にします。一社だけ確認して、ほかの口座を忘れると、通算後の金額を正しく組み立てられません。

  1. 各社の特定口座年間取引報告書と一般口座の取引記録を集める。
  2. 特定口座は源泉徴収あり・なしを分け、NISA口座を別にする。
  3. 上場株式等の売却益・売却損を証券会社ごとに並べる。
  4. 配当等を申告するなら、課税方式と源泉徴収額を確認する。
  5. 前年以前から繰り越した損失があれば、過去の申告書と付表を確認する。
  6. 国税庁の確定申告書等作成コーナーで入力し、必要書類を確認する。

国税庁は、損益通算・繰越控除に「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」が必要になると案内しています(2026年7月時点)。入力画面が付表を作成してくれる場合でも、元資料の数字と口座区分が合っているかは自分で照合します。

この知識が効かない場面・注意点

損益通算は、投資の損失そのものを埋める制度ではありません。税計算の対象となる所得を調整する仕組みであり、売却損で失った資金が全額戻るわけではありません。税負担が減る可能性と、投資で生じた損失は分けて考えます。

また、確定申告へ含めた所得は、扶養控除などの所得判定や、国民健康保険料などへ影響する場合があります。税額だけが下がっても、世帯全体の負担まで同じ方向へ動くとは限りません。自治体、勤務先の健康保険、税務署では確認する制度が異なります。

外国株、非上場株、信用取引、配当、投資信託などが混在すると、商品名だけでは対象を判断しにくくなります。相続や贈与、過去の申告漏れが関係する場合も、一般的な記事だけで結論を出せません。所轄税務署、国税庁の相談窓口、または税理士へ資料を見せて確認してください。

損益通算と繰越控除は、「損が出たら得になる制度」ではありません。対象を分け、期限を守り、申告を連続させるための手続きです。損失が出た年のうちに資料をまとめ、翌年以後へ持ち越す残額を申告書の控えで管理しましょう。

申告要否を決める4分岐

状況この記事で決められる次の行動
同じ源泉徴収あり特定口座の中だけで損益が発生年間取引報告書で口座内の通算結果を確認する
複数の証券会社に利益と損失が分かれた各社の年間取引報告書を集め、確定申告で通算するか検討する
損失を翌年以後へ残したい損失が出た年から連続して必要な確定申告を行う
NISA口座だけで損失が出た課税口座の利益へ足さず、通算・繰越の対象外として分ける

配当を含める、一般口座や外国株が混ざる、扶養・保険料への影響が心配な場合は、この表だけで申告方法を決めません。投資と確定申告の3分岐で申告全体を確認し、NISAの損失はNISAの損失を4例で整理、口座区分は特定口座の源泉徴収あり・なしへ進んでください。判断できないときは取引報告書と過去の申告書をそろえ、税務署または税理士へ確認します。

投資は元本を割り込む可能性があります。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

確認日と一次資料

確認日: 2026-08-23(2026-08-23 時点)。最新情報は次の公式サイトで確認してください。